人種差別や排外的な言動を繰り返し職場の環境を著しく損なう従業員がいる場合、従業員の代表機関である事業所委員会(Betriebsrat)は当該同僚の解雇ないし異動を雇用主に対し要求できる。これは事業所体制法(BetrVG)104条第1文に記されたルールである。同第2文にはさらに、事業所委の申請を受けて当該被用者の解雇ないし異動を労働裁判所が雇用主に命じたにもかかわらず、雇用主がこれに従わない場合、裁判所は雇用主に強制金(Zwangsgeld)を課し裁判所の命令通りに遂行するよう仕向けることができる、と記されている(強制金の額は一日当たり最大250ユーロ)。このルールを巡る係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が3月28日に判決(訴訟番号:2 AZR 551/16)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判は保険会社の事務職員が同社を相手取って起こしたもの。原告事務職員は2014年10月と15年1月、同僚といさかいを起こしたため、事業所委員会は15年4月、BetrVG104条第1文の規定に従い同職員の解雇ないし異動措置を雇用主に要求した。
雇用主がこれに応じなかったことから、事業所委は同職員の解雇・異動措置を取ることを雇用主に対し命じるよう労働裁判所に申請。労働裁判所はそうした措置の実施を雇用主に命じた。
雇用主はこれを受けて、原告職員に即時解雇(fristlose Kuendigung)を通告。念のために解雇予告期間を設けた通常解雇(ordentliche Kuendigung)も通告した。
原告は解雇を不当として同保険会社を相手取って提訴した。
一審と二審は、即時解雇についてはその要件である「重大な理由(wichtiger Grund)」がないとして原告の主張を認めたものの、通常解雇については妥当だとの判断を提示。最高裁のBAGもこの判断を踏襲した。判決理由でBAGの裁判官は、雇用を継続できない業務上の緊急の理由がある場合、解雇は不当でないとした解雇保護法(KSchG)1条2項第1文の規定を指摘。原告解雇を労働裁判所が被告に命じている以上、通常解雇は「業務上の緊急の理由」に基づく措置だとの判断を示した。