「公正な裁量」に基づかない転勤命令の拒否は妥当か

労働契約や社内・労使協定、法律に特別な規定がない限り雇用主は被用者の勤務の内容、場所、時間を「公正な裁量(billiges Ermessen)」に従って決定できる。これは営業令(GewO)106条第1文に記されたルールである。この規定に絡んだ係争で雇用をめぐる問題の最高裁である連邦労働裁判所(BAG)の第10小法廷が14日の決定(訴訟番号:10 AZR 330/16)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。

裁判は不動産会社のドルトムント事業所で2001年から働いている従業員が同社を相手取って起こしたもの。同従業員は2013年に解雇通告を受けたことからその撤回を求める裁判を起こし、14年に勝訴した。

14年3月になって同従業員と同じチームで働く複数の従業員が同従業員とともに働くことを拒否したことから、同社は15年2月23日付の文書で同従業員にベルリンへの転勤を命じた。ドルトムントの事業所には同チーム以外に同従業員が働く場がなかったからである。

同従業員はこの転勤命令の受け入れを拒否した。これを受けて同社は2度にわたって警告処分を下したものの、それでも転勤を拒否したことから5月28日付の文書で即時解雇を通告した。

原告はこれを不当として2つの裁判を起こした。1つは解雇無効の確認を求める裁判、もう1つはベルリン転勤命令は公正な裁量に基づいていないとして、その無効確認を求める裁判だ。

ここで取り上げているのは後者の裁判で、原告は1審と2審でともに勝訴した。判決理由で2審のハム州労働裁判所は、被告企業は原則的に原告に対し転勤を命令できるものの、ドルトムントから遠く離れたベルリンへの転勤命令は公正な裁量に基づいたものでないとの判断を示した。

最高裁BAGの第10小法廷は2審判決を支持する判断を示した。ただ、BAGの第5小法廷が2012年の判決(訴訟番号:5 AZR 249/11 – Rn. 24, BAGE 141, 34)でこれと相いれない判断を下していることから、拘束力のある判決を下さなかった。

第5小法廷は12年の判決で、被用者が雇用主の公正でない(unbillig)命令を拒否できるのは、その命令を裁判所が無効と判断した場合に限られるとの判断を示した。これに対し第10小法廷は、裁判所の判断がなくても公正でない命令を拒否できるとの見解を示している。

第10小法廷は今後、労働裁判法(ArbGG)45条の規定に従い、第5小法廷に対し12年に下した判断を堅持するかどうかの意思確認を行う。第5小法廷が堅持の意思を伝えた場合は、BAGの大法廷が最終判断を下すことになる。

■ポイント

原告は裁判所が無効と判断する前に転勤命令を拒否した。第5小法廷の判決に基づくと、この命令拒否は違法となる。裏返して言えば、原告は転勤命令に差し当たり従ったうえで、裁判を通してその無効を勝ち取らなければならないことになる。これに対し第10小法廷は、命令拒否の時点で転勤命令の違法性が確定していなくても、その後の裁判で違法性が確定すれば命令拒否は合法だ、との判断を示した。

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