英国が通商協定を結ぶことなしに欧州連合(EU)を離脱すると、ドイツの自動車業界では1万8,000人の雇用が失われる恐れがある――。コンサルティング大手デロイトは22日発表のレポートでこんなシナリオを提示した。
英国はEU離脱に当たってEUと自由貿易協定(FTA)を締結しようとしている。ただ、EUとの交渉ではまず主要な離脱条件についての協議を行い、通商など将来の関係に関する話し合いは後回しとすることを19日に取り決めており、離脱条件交渉がまとまらないとFTAを結べないことになっている。
離脱条件では双方の立場の隔たりが大きいため、交渉が難航し、離脱契約とFTAの発効に必要な手続きを2年の期限内に完了できない恐れがある。その場合は英国とEUとの貿易に世界貿易機関(WTO)の関税ルールが適用される可能性が高い。同関税率は自動車で10%、自動車部品で4.5%に上る。
デロイトはこの事情と、昨年6月のEU離脱決定(国民投票)後に英ポンド相場が下落したことを踏まえて、ドイツの自動車業界が受ける影響を計算。ドイツの工場で製造した自動車の英国での平均価格は5,600ユーロ上昇し3万2,100ユーロに達するとの試算結果を明らかにした。ポンド相場の下落は関税同様に、輸入製品の価格上昇をもたらす。
ドイツ車の英国販売価格が上昇する結果、同国でのドイツ車の販売台数は31%(25万5,000台)減少する。独自動車業界で働く就労者80万8,000人のうち6万人は英国への輸出で創出されていることから、独業界では1万8,000人の雇用が危険にさらされる計算だ。
ドイツの自動車メーカーは英国販売の減少を緩和するために、関税・ポンド安に伴うコストを顧客に全面転嫁しない可能性もある。その場合は収益力の低下という形で財務に悪影響が出る。