重度の障害者の解雇のハードルは高い。障害者は不当な差別に遭いやすいためで、第9社会法典(SGB Ⅸ)85条には障害者を解雇する際は障害者社会統合局(Integrationsamt)の承認を得なければならないと明記されている。
重度の障害者の認定は障害者本人の申請を受けて援護庁(Versorgungsamt)が行う。解雇通知を受け取る少なくとも3週間前に同申請を行っていれば、SGB Ⅸ85条の規定が適用される(最高裁である連邦労働裁判所の判決=2 AZR 613/06=による)。では、援護庁への申請を解雇通知受け取り前の3週間未満の時期に行った場合、SGB Ⅸ85条の規定が適用される可能性はまったくないのだろうか。この問題をめぐる係争でラインラント・ファルツ州労働裁判所が1月に判決(訴訟番号:5 Sa 361/16)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判は窓枠やドアを製造する企業で設計技師として勤務していた社員が雇用主を相手取って起こしたもの。同社は経営破たんが避けられなくなったことから2014年4月22日、同月末付で業務を停止することを決定し、25日にその旨を全従業員に伝達。28日付の文書で全従業員に対し経営上の理由による解雇を通告した。原告社員は7月末付で解雇されることになっていた。
同社員は業務停止決定を知った25日、援護庁に重度の障害者の認定を申請し、8月8日付の文書で認定を受けた。また、5月6日には障害者社会統合局の承認を得ずに原告の解雇を決定したことはSGB Ⅸ85条の規定に抵触するとして、解雇無効の確認を求める裁判を起こした。
この裁判で2審のラインラント・ファルツ州労働裁判所は1月12日の判決でまず、原告が重度の障害者認定を申請した時期は解雇通告を受け取る数日前であり、重度の障害者認定を根拠に解雇無効を訴えることはできないとの判断を示した。
そのうえで、重度の障害者であることが誰が見ても明らかな場合は認定申請の期限ルール(解雇通知を受け取る少なくとも3週間前申請すること)を満たしていなくても障害者社会統合局からの解雇承認の取付が雇用主に義務づけられるとした連邦労働裁判所(BAG)の判例(例外ルール)を指摘。原告が重度の障害者であることを勤務中の行動などをもとに雇用主が理解していた事実を、原告が証明できれば、障害者社会統合局の承認を得なかった原告の解雇は無効になるとの判断を示した。
原告はその証明を裁判で行うことができなかった。このため裁判官は解雇に問題はなかったと言い渡した。最高裁のBAGへの上告は認めなかった。