英仏が内燃エンジン搭載車の2040年販売禁止方針を打ち出すなか、ドイツではエンジン車長期活用に向けた動きが活発化している。電気自動車(EV)への需要シフトが急速に進むと雇用の減少など独自動車業界の痛手が大きいほか、環境に優しい合成燃料を実用化できればエンジン車を長期的に利用し続けられるという事情もあるためで、企業や研究機関は大気中の二酸化炭素(CO2)を増やさないだけでなく、粒子状物質(PM)や窒素酸化物(NOx)をほとんど排出しない合成燃料を低コストで生産する技術の開発に取り組んでいる。
環境に優しい合成燃料は水から取り出した水素分子(H2)と空気中のCO2を原料に、再生可能エネルギー電力を用いて製造する。このため、燃料を利用しても大気中のCO2は増加しない。また、燃焼の際にPMとNOxがほとんど発生しないように燃料を設計できる。
合成燃料は軽油、ガソリン、ガスとして製造することができる。既存の車両でそのまま利用できることから、石油燃料などの代わりに投入するだけでCO2やNOxの排出量を大幅に削減できる。
サプライヤー大手のボッシュによると、EVを補う形で環境に優しい合成燃料を利用すると、欧州では2050年までにCO2排出量を2.8ギガトン(2兆8,000億キログラム)削減できる。これはドイツの16年排出量の3倍に当たる規模という。
環境に優しい合成燃料は現在、製造コストが高く、採算が合わないものの、ボッシュは市販価格(税抜き)で長期的に1リットル当たり1~1.4ユーロを実現できるとしている。
マックスプランク化学エネルギー変換研究所(MPI CEC)のロベルト・シュレーゲル教授は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙の取材記事で、すべての自動車をEV化するとともに、EVで利用する電気を再生エネへと全面的に切り替えることは欧州でも環境規制が厳しい米カリフォルニア州でも実現できないと指摘。有害物質とCO2の排出削減には合成燃料を活用が不可欠だとの見方を示した。
同教授は環境に優しい合成燃料の実用化に向けて「合成燃料による持続可能なモビリティ」というイニシアチブを立ち上げた。スタートアップ企業1社と2つの研究機関が今秋にもフランクフルトに工場を共同設立。合成燃料の生産を開始する。
当面は従来型電力を用いるものの、将来は再生エネへと全面的に切り替えて「グリーン化」する考えだ。生産した燃料はすでにミュンヘン市の公用車向けに供給することが決まっている。ルール工場地帯の自治体も関心を示しているという。