ドイツ連邦環境庁(UBA)は23日、ディーゼル車の窒素酸化物(NOx)排出削減に向けて自動車メーカーが打ち出したソフトウエアのアップデートと旧型ディーゼル車の下取りプログラムを実施しても、大気汚染の緩和効果は小さく、欧州連合(EU)のNOx規制に違反する都市の多くは今後も順守できない状態が続くとの調査結果を発表した。同調査を委託したバーバラ・ヘンドリックス連邦環境相はNOx削減効果が大きいとされるハード(部品)レベルの修理を自動車業界が拒否していることを批判。メーカーに対しハードレベルの修理を強く促した。
EU加盟国はNOxの濃度を1立方メートル当たり40マイクログラム(年平均)以下に抑制することを2010年以降、義務づけられている。ドイツでは現在、約70の都市が同規制に違反しており、欧州委員会は2月中旬、政府に最終警告書を送付した。順守に向けた対策が早急に作成・実施されなければ、ドイツを欧州司法裁判所(ECJ)に提訴する恐れがある。
同ルールを根拠に環境保護団体が起こしている係争では7月28日、欧州排ガス基準「ユーロ5」以下のディーゼル車を対象にシュツットガルトでの走行禁止を地元行政裁判所が言い渡した。判決は確定していないものの、自動車業界の危機感は大きい。
ドイツ政府と国内9州の政府、および自動車業界の代表などは都市部での走行禁止を回避するために今月2日、「ナショナル・フォーラム・ディーゼル」という名の会合(通称ディーゼル・サミット)を開催し、対策を協議。独メーカーはソフト交換を行い、ディーゼル車のNOx排出量を低減することを確約した。対象となるのはユーロ5に対応したすべてのディーゼル車と、最新の排ガス基準である「ユーロ6」に対応したディーゼル車の一部で、総数は530万台。
独メーカーとトヨタなど一部の外資系メーカーはこのほか、旧型ディーゼル車を下取りに出して新車を購入する顧客に報奨金を支給するキャンペーンを展開している。各社はこれにより自社ブランド車の販売を増やすほか、大気中のNOx濃度引き下げに貢献する考えだ。
UBAは今回の調査で、ソフト交換とディーゼル車下取りプログラムの効果を試算した。対象に選んだのはEU規制に違反する都市のなかでもNOx濃度が極めて高いミュンヘンのランツフーター通り(1立方メートル当たり80マイクログラム)と、違反が中程度のマインツ・パルクス通り(同53マイクログラム)の2カ所で、削減幅(試算値)はそれぞれ5マクログラム、2マイクログラムにとどまった。ともにEU基準の40マイクログラムを遵守できないことから、ヘンドリックス環境相は「さらに大きく踏み込んだ措置が必要不可欠だ」と指摘。ハードレベルの修理をメーカーに要求した。
排ガス浄化装置である尿素SCRシステム(ハード)をディーゼル車に新たに取り付けると、NOxの排出量を約90%削減できる。それにもかかわらずメーカーが尿素SCRシステムの追加取り付けを拒否するのは◇コストが1台当たり最低1,500ユーロと高い(ソフト交換は100ユーロ程度)◇技術的に難しく、仮に取り付けたとしてもエンジン寿命が短くなり、メーカーに補償責任が生じる懸念がある――ためだ。
自動車修理業界団体ZDKのユルゲン・カルピンスキー会長は『ハンデルスブラット』紙のインタビューで、「ハードの修理はソフトのアップデートに比べコストがかさむが、効果ははるかに大きい」と述べ、メーカーに再考を促した。ディーゼル車のソフトを交換しても走行禁止の対象になる可能性を排除できないことを強調している。