IBMが独クラウドへのアクセスを制限、米情報機関への顧客の不安受け

米IT大手のIBMが、独フランクフルトにある同社のクラウドセンターに欧州連合(EU)域外からアクセスできないようにする措置を講じた。同社の欧州クラウド事業会社のヤセル・エイサ副社長が24日ミュンヘンで明らかにしたもので、クラウドに保存した企業秘密や重要情報を米国の情報機関が入手できないようにすることが狙いだ。顧客企業の社員などであれば、これまで通りEU域外からでもアクセスできる。

背景には米政府がIT大手マイクロソフトに対し、クラウドに保存されている欧州顧客の個人情報の提供を要求していることがある。マイクロソフトはこれを拒否し、裁判で争っている。今夏に最高裁判決が予想されることから、欧州の企業、業界団体、政治家の間で懸念が強まっている。

エイサ副社長は「(IBMのクラウドに保存されている顧客のデータは)わが社のデータでなく、わが社にアクセス権がないことを、米国のすべての当局に訴える」ことを確約した。IBMはクラウドを事業の柱の1つと位置づけており、主要市場の欧州で顧客の信頼を喪失することは絶対に回避する考えだ。

米IT大手は不特定多数の利用者を対象とするパブリッククラウドで強い競争力を持つ。ただ、米国家安全保障局(NSA)の大規模なスパイ活動が2013年に暴露されたことを受けて、米国のクラウドに情報を保存することに懸念を持つ企業が欧州で増加。欧州企業を顧客として獲得するためには米国の法律が及ばない欧州にデータセンターを構えるとともに、米当局がアクセスできないようにすることが必要不可欠となっている。

マイクロソフトは15年、こうした事情を踏まえドイツテレコムと提携した。フランクフルトとマグデブルクの電算センターを使って提供するクラウドサービスで、データをもっぱらドイツ国内で保管。また、ドイツテレコムのITサービス子会社Tシステムズを顧客データの信託管理者に指定することで、マイクロソフトがTシステムズないし顧客の同意なしにこれらのデータにアクセスできない仕組みを構築した。

上部へスクロール