雇用主は被用者との間で、退職後に競合企業で勤務することなどを禁じる取り決めを行うことができる。これは「競業禁止(Wettbewerbsverbot)」と呼ばれるルールの1つで、営業令(GewO)110条に記されている。そうした取り決めを行う場合は競業禁止期間中に、退職した当該被用者に対し補償金(Karenzentschädigung)を支払わなければならない。これは、商法典(HGB)74条2項に明記されたルールで、補償金は最後に支給した給与の半額以上でなければならない。
では、雇用主が同補償金を契約通りに支払わない場合はどうなるのだろうか。この問題を巡る係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が1月31日の判決(訴訟番号:10 AZR 392/17)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は被告企業に技術主任として勤務していた元被用者が同社を相手取って起こしたもの。同社は同主任に対し退職後3カ月間、競合活動を禁止する見返りとして、給与の50%相当額を補償金として支払うこと労働契約で取り決めていた。
同主任は2016年1月末付で退職したものの、補償金が支払われないことから、3月1日付の電子メールで同4日までの支払いを要求。それでも支払いがなかったことから8日に改めて電子メールを送った。同メールには「競合活動禁止合意に今この時点から拘束されないと感じていることを伝えたい」と書かれていた。
保証金はその後も支払われなかったことから、原告主任は4月28日、補償金3カ月分(2~4月分)の支払いを求めてヴュルツブルク労働裁判所に提訴した。
これに対し被告企業は、原告は3月8日付けの電子メールで競合禁止合意を破棄したと主張。これにより同社の補償金支払い義務は一切なくなったとの立場を示した。
一審のヴュルツブルク労裁は原告の訴えを全面的に認める判決を下した。これに対し二審のニュルンベルク州労働裁判所は、3月8日付の電子メールで原告は競合禁止合意を破棄したと認定。被告には2月1日から3月8日まで補償金を支払う義務があるものの、3月9日以降はないとの判断を示した。
最終審のBAGも二審と同じ判断を示した。判決理由でBAGの裁判官はまず、競業禁止合意は契約当事者が相互に義務を負う民法典320条の双務契約(gegenseitiger Vertrag)に当たると確認したうえで、双務契約では契約当事者のどちらか一方が義務を履行しない場合、相手側は法的な前提を満たせば契約を破棄できると指摘。被告が補償金を支払わなかったことから、原告には契約破棄の権利が発生しており、この権利を3月8日の電子メールで行使したとの判断を示した。
原告は裁判審理のなかで、3月8日の電子メールは契約破棄の通告でなく、被告に補償金を支払わせるための挑発に過ぎないと主張していたが、BAGはニュルンベルク州労裁と同様に契約破棄の通告に当たると判断した。