高級車大手の独ダイムラーは24日、中国の持ち株会社・浙江吉利控股集団の李書福会長が同社株9.69%を取得したことを明らかにした。浙江吉利は自動車製造の吉利汽車を傘下に持っており、ダイムラーとの協業を実現したい考え。ダイムラーは声明で「長期志向の投資家を新たに獲得した」として李会長の出資に歓迎の意を表すると同時に、「ダイムラーは中国に北京汽車(BAIC)という強力なパートナーを持っている」ことも強調。吉利に対し距離感を保った。
李会長はダイムラー株を約95億ユーロで取得したもよう。今回の出資により、クウェート投資庁(出資比率6.8%)を抜いて筆頭株主となった。出資比率を引き上げる考えは現時点でないとしている。
吉利は李会長が1986年に創業した企業で、1997年に自動車事業へと参入。2010年には米フォードからスウェーデンの乗用車メーカー、ボルボ・カーズを譲り受けた。
メディア報道によると、吉利は昨年11月、転換社債の発行を通した出資をダイムラーに打診した。ただ、この時は既存の株主よりも有利な条件を迫ったため、ダイムラーは株主の不平等な待遇は受け入れられないとして拒否。李会長はこれを受けて、ダイムラー株を市場で取得した。
出資の狙いは自動車業界で進行している技術革新の大波に対応することにあるもようだ。李会長は中国メディア『ユニバーサル・カーズ』に、自動車の電動化、自動運転、アップルやグーグルなどIT大手の車市場参入など自動車業界が大きな転換期を迎えていることを指摘。伝統的な自動車メーカーは2~3社しか生き残れない可能性があるとして、「新しい技術のすべての分野でトップに立つダイムラー」と協働しシナジー効果を引き出す意向を表明した。
同会長は25日にダイムラーの本社所在地シュツットガルトに到着し、26日には同社の首脳陣と会談した。
中国政府関与の観測も
中国人がドイツの主要企業であるダイムラーの筆頭株主となったことにドイツ政府は静観の構えを示している。広報担当者はメディアの問い合わせに「過半数未満の出資という投資の性質上、貿易法、競争法に基づいて政府が動く必要はない」との立場を表明した。
ドイツでは貿易法の規定により、公共秩序・セキュリティに支障が生じる恐れがあると経済省が判断した場合、EUおよび欧州自由貿易連合(EFTA)域外の企業がドイツ企業に25%以上、出資することを禁止できる。裏返して言えば、25%未満であれば政府は表立って介入することができない。
ドイツ企業に対する中国企業の出資に絡んでは最近、中国の国有送電会社、国家電網がドイツ3位の送電事業者50ヘルツに20%資本参加する計画が明らかになった。政府は貿易法の25%ルールに該当しないとして不介入方針を示しているものの、『ハンデルスブラット』紙によると、経済省のマティアス・マハニヒ事務次官は国家電網の出資阻止に向けて水面下で50ヘルツの出資者に働きかけを行っているという。
吉利の李会長がダイムラー株取得資金をどこから調達したかは明らかにされていない。企業である吉利が同株を取得したのであれば資金の出所を開示する義務が発生するが、李会長は私人として取得することで同義務を回避している。
今回の出資には中国政府が関与しているとの観測もある。『フランクフルター・アルゲマイネ』紙はその根拠として、(1)中国政府は人民元相場の下落を阻止するために自国企業による外資買収を制限しているにも関わらず、今回の巨額出資を許可した(2)吉利はボルボ・カーズを買収した際に、買収資金18億ユーロのうち12億ユーロを国営投資ファンドと国有の中国建設銀行から調達した(3)李会長は共産党員であり、習近平国家主席とは近い関係にある――を挙げた。
李会長は中国政府の広域経済圏構想「一帯一路」の国際会議が28カ国の首脳を招いて昨年5月に北京で開催された際、同国民間自動車メーカーの経営者でただ一人、参加を認められた。ベルギーのヘントにあるボルボ・カーズの工場を習主席が訪問した際は自ら案内を行ったという。