待機は勤務時間か

医師や看護婦、消防隊員は基本的に待機勤務を行わなければならない。同僚の病気や緊急事態に対応できる態勢を病院や消防署は常に整えていなければならないためだ。同じことはIT技術者など重要なインフラの管理を担当する被用者にも当てはまる。では、待機勤務は労働時間に該当するのであろうか。この問題を巡る係争で欧州連合(EU)司法裁判所(ECJ)が2月の判決(訴訟番号:C-518/15)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。

裁判はベルギー・ニヴェル市の消防隊員ルディ・マチャック氏が同市を相手取って起こしたもの。同市の消防隊員は常勤の消防士と非常勤の消防団員で構成されている。マチャック氏は民間企業に勤務しており、消防活動はあくまで消防団員として行っていた。

消防団員であっても自宅待機の義務があり、出動要請時は8分以内に出動しなければならないことから、同氏は待機は勤務時間に相当すると主張。市当局にその分の賃金支払いを要求し、裁判を起こした。

同係争を審理するブリュッセル労働裁判所はこの問題がEU法に関わると判断。マチャック氏の待機時間がEU労働時間指令(Directive 2003/88/EC)に定める「労働時間」に該当するかの判断をECJに仰いだ。

ECJは今回の判決でまず、EU労働時間指令で定められた「労働時間」と「休息時間」の定義から加盟国が逸脱することは許容されないと前置きしたうえで、EU法上の労働時間の要件として、◇雇用主が指定した場所で待機する義務◇命令発令後に速やかに任務を果たす義務――の2点を指摘。マチャック氏の自宅待機義務はこの2つの要件をともに満たしているとして、労働時間に該当するとの判断を示した。

ベルギーの裁判所は今後、ニヴェル市がマチャック氏に支払う賃金について判断を下す。