自動車大手の独BMWが英国の生産事業から撤退することを視野に入れ始めた。欧州連合(EU)離脱決定を受けて英国が目指す、対EU通商協定の締結見通しが不透明な状態にとどまっているためで、同社の税関問題担当者であるシュテファン・フライスムート氏は25日『フィナンシャル・タイムズ』紙に、通関手続きに支障が出る場合は「英国で生産できなくなる可能性がある」と明言した。現時点で工場閉鎖は検討していない。
BMWは小型車「ミニ」を英オクスフォード工場で生産している。部品の90%を他のEU加盟国などからの輸入に依存しており、税関手続きに長い時間を要するようになるとサプライチェーンが適切に機能しなくなる恐れがある。同社は英国に計4工場を持ち、約8,000人を雇用していることから、生産撤退は同国経済に大きな痛手となる。
背景には英メイ政権がEUだけでなく、一部のEU非加盟国も加盟する「EU関税同盟(EUCU)」からも離脱する方針を示していることがある。
EUCUでは域内の税関手続きが廃止される反面、加盟国には第3国からの輸入品に共通の関税を課すことが義務づけられている。経済競争力を維持・向上させるために今後、世界の多くの国々と自由貿易協定(FTA)を結ぶ方針の英国にとってこのルールは大きな障害となることから、メイ首相は同ルールの適用除外をEUに認めさせる考えだ。
ただその場合は、仮に英国がEUとFTAを締結し英国製品の対EU輸出が非関税扱いになっても、これらの製品を対象にEU加盟国の税関検査が行われることになる。第3国の製品が英国製品と偽ってEUに非関税で持ち込まれる恐れがあるためだ。EUから英国への輸出も同様の扱いとなる。
これは英国で事業を展開するメーカーにとって、対EU貿易の手間と時間がかさむことを意味する。大陸欧州から英工場に輸入する部品の物流速度が税関審査で低下し、ジャストインタイム生産システムの運営コストが膨らむためだ。
EU離脱方針はすでに英国経済に影響をもたらしている。英自動車工業会(SMMT)によると、自動車業界の今年上半期の英国投資は前年同期の約半分の3億4,700万ポンドへと落ち込んだ。スペイン建設大手フェロビアルは国際事業を統括する持ち株会社の拠点をオクスフォードから蘭アムステルダムへと移転する。欧州航空機大手のエアバスは英国投資見直しの可能性を示唆している。
SMMTはこうした事情を踏まえ26日に声明を発表し、関税同盟にとどまるようメイ首相に訴えた。