労働契約には通常、除斥(じょせき)期間(Ausschlussfrist)に関する取り決めが含まれている。除斥期間とは権利を行使しないままに一定期間が経過すると、その権利が消滅するという制度である。この制度に関わる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が6月20日の判決(訴訟番号:5 AZR 262/17)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は技術系の社員として被告企業で2014年1月1日から15年7月31日にかけて勤務していた元社員が起こしたもの。労働契約には(1)雇用関係から発生するあらゆる権利は支払い期日から3カ月以内に文書で請求しなければならない(2)権利請求の受け入れを相手側が拒否した場合は拒否通知の送達後3カ月以内に裁判を起こさなければならない――と記されており、これらの期限を過ぎると権利が失効することになっていた。
元社員は15年9月14日付の文書で、未消化の有給休暇32日分の支払い(6,387.52ユーロ)と労働時間口座に貯まっている残業時間182.25時間分の支払い(4,671.88ユーロ)を同社に要求した。同社は9月28日付の文書で受け入れを拒否したものの、話し合いを通した解決を提案。これを受けて双方の弁護士が交渉を行ったものの、11月25日に決裂した。
原告はこれを受けて翌16年1月21日、裁判所に訴状を提出した。
1審と2審は原告の訴えを棄却する判決を下した。判決理由で2審のニュルンベルク州労働裁判所は、原告が提訴したのは被告が原告からの支払い請求を拒否した9月末から4カ月弱後の1月下旬だったと指摘。権利請求の受け入れを相手側が拒否した場合は拒否通知の送達後3カ月以内に裁判を起こさなければならないとした労使契約の除斥期間規定に基づき、原告の請求権は消滅しているとの判断を示した。
これを不服として原告は上告。最高裁のBAGは逆転勝訴を言い渡した。判決理由でBAGの裁判官は、◇交渉期間中は消滅時効(債権者が一定期間、権利を行使しない場合、権利が消滅する制度)が停止されるとした民法典(BGB)203条第1文の規定◇消滅時効の停止期間は消滅時効期間に算入されないとしたBGB209条の規定――を指摘。原告と被告は15年11月25日まで交渉を行っており、同日から2カ月弱後に提訴した原告の請求権は労働契約の除斥期間規定に照らして有効だとの判断を示した。
裁判官はさらに、消滅時効はその停止期間の終了日(ここでは原告と被告の交渉が決裂した11月25日)から最短3カ月で成立するとしたBGB203条第2文の規定にも言及。この規定は労働契約の除斥期間には適用されないとの判断を示した。