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2018/7/11

ゲシェフトフューラーの豆知識

一定期日前に退社の社員に特別手当の返還を請求できるか

この記事の要約

自主退社ないし解雇で一定期日以前に雇用関係がなくなった被用者に対し、すでに支給した特別手当の返還を義務づける労使協定の取り決めは、違法なのだろうか。この問題を巡る係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が6月の判決(訴訟番 […]

自主退社ないし解雇で一定期日以前に雇用関係がなくなった被用者に対し、すでに支給した特別手当の返還を義務づける労使協定の取り決めは、違法なのだろうか。この問題を巡る係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が6月の判決(訴訟番号:10 AZR 290/17)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。

裁判はバス会社が同社の元運転手を相手取って起こしたもの。同社が属する業界の労使協定では、(1)雇用者は毎年12月1日までに月給1カ月相当額の特別手当を被用者に支給する(2)有責行為による解雇ないし自主退社によって翌年3月末までに雇用関係がなくなった被用者は特別手当を返還しなければならない――ことが取り決められている。

原告バス会社は被告を2016年1月に解雇。それと同時に前年11月の給与と同時に支給した特別手当の返還を被告に要求した。

これに対し被告は、雇用関係がなくなった被用者に特別手当の返還を義務づける労使協定の規定は基本法(憲法)12条1項で保障された「職業の自由(職業、職場などを自由に選ぶ権利)」を侵害する違憲な規定だとして提訴した。被告の論法は、前年12月1日までに受給した特別手当を返還しなければならなくなることから、被用者は3月末まで労働契約を解除しにくく、職業の自由が不当に制限されている――というものである。

被告の返還拒否を受けて原告が起こした裁判で、1・2審と最終審のBAGは原告勝訴を言い渡した。判決理由でBAGの裁判官はまず、3月末までに雇用関係がなくなった被用者は前年12月1日までに受給した特別手当を返還しなければならないとする取り決めが労使協定でなく、労働契約でなされていたのであれば、そうした規定は、普通契約約款(Allgemeine Geschaeftsbedingungen=AGB)の作成使用者(ここでは雇用主)が信義義務に反して契約相手(被用者)に不利な取り決めを行った場合、その取り決めは無効となるとした民法典(BGB)307条1項第1文に基づき無効になるが、労使協定にはBGB307条1項第1文が適用されないと指摘。原告業界の労使協定に定める特別手当返還規定は民法上、問題ないと言い渡した。

裁判官はそのうえで憲法上の判断を提示し、争点となった特別手当返還規定は基本法12条で保障された職業の自由を制限するものの、労使は基本法9条3項を根拠とする「労使協定の自律(Tarifautonomie)」によって、協定内容について大きな裁量を持っていると指摘。特別手当返還規定は同裁量の枠内に収まっており、職業の自由を不当に侵害するものではないと言い渡した。

■労使協定(Tarifvertrag)

雇用者(団体)と労組が取り決める協定。雇用者と従業員代表の事業所委員会(Betriebsrat)が取り決める社内・事業所内協定(Betriebsvereinbarung)とは異なる。

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