貿易法(AWG)の実施に必要な細則を定めた貿易政令(AWV)の改正案をドイツ政府が作成している。外資が計画する国内企業買収に対する経済省の審査を強化することが柱。中国企業によるドイツ企業の“買い漁り”に歯止めをかけることが狙いだ。ペーター・アルトマイヤー経済相が日刊紙『ヴェルト』に明らかにした。
貿易法・政令ではドイツの公共秩序・セキュリティに支障が生じる恐れがあると経済省が判断した場合、EU(欧州連合)および欧州自由貿易連合(EFTA)域外の企業がドイツ企業に25%以上、出資することを禁止できると定められている。
政府は産業ロボット大手の独クーカが中国家電大手の美的集団に買収されたことを受けて昨年、AWVを改正した。クーカはドイツの産学官が一体となって推し進める「インダストリー4.0」の中核的な企業の1社であるためだ。他のハイテク企業が中国資本の買収標的となっていることもあり、改正に踏み切った。
具体的には外資による出資を禁止できる対象を初めて具体的に規定。電力、病院、港湾など重要インフラの運営事業者やこれらのインフラに用いるソフトウエアの開発会社への出資を外資が計画する場合は、買収可否の審査対象になることが明確化された。
また、EU・EFTA域外の企業が域内に子会社を設立して貿易法・政令の審査規制を回避することを防ぐために、審査期間を従来の2カ月から4カ月に拡大する条項も追加された。審査期間を長期化することで、経済省は買収計画の詳細な情報を収集し、買収主体の背後に域外の政府や政府系投資会社が隠れていないかを調べやすくなる。背景には、中国企業がEUのハイテク会社を買収する場合、自国政府の資金支援を受けるとともに、EU域内に子会社を設立することが多いという事情がある。
政府が今回、さらなる改正に踏み切るきっかけとなったのは、中国の国有送電会社である国家電網が試みた独送電事業者50ヘルツへの資本参加だ。国家電網は50ヘルツへの出資比率を20%にとどめる考えだったことから、政府はAWVの25%規定に基づく拒否権を行使できず、出資を阻止するために50ヘルツの出資者に水面下で働きかけるという「裏技」を使わざるを得なかった。
この反省を受けて、拒否権を行使できる出資比率を「25%以上」から「15%以上」へと引き下げる。現在、省庁間で改正案の調整を行っており、年内に施行する考えだ。