労働契約には通常、除斥(じょせき)期間(Ausschlussfrist)に関する取り決めが含まれている。除斥期間とは権利を行使しないままに一定期間が経過すると、その権利が消滅するという制度である。この制度に関わる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が9月の判決(訴訟番号:9 AZR 162/18)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は2015年9月1日から16年8月15日までフローリング職人として雇用されていた被用者が元雇用主を相手取って起こしたもの。両者の労働契約には、雇用関係から発生するあらゆる権利は支払い期日から3カ月以内に文書で請求しなければならないと記されており、この期限を過ぎると権利が失効することになっていた。
原告は同雇用主から解雇通告を受けた後、解雇無効の確認を求める裁判を起こし、最終的に和解した。和解内容は◇労使契約を16年8月15日付で解除する◇同雇用主は労働関係から発生した支払い義務を9月15日までに履行する――というものだった。
原告は被告からの支払いを10月6日に受け取ったものの、そこには未消化の有給休暇の現金換算額が含まれていなかったことから、その支払いを求める裁判を17年1月17日に起こした。
これに対し被告は、提訴日の時点ですでに3カ月の除斥期間が経過しているとして、有給休暇の現金換算額を請求する権利はすでに失効した反論した。
原告は一審で勝訴したものの、二審で敗訴。最終審のBAGで逆転勝訴を勝ち取った。判決理由でBAGの裁判官は、最低賃金の請求権を制限ないし排除する取り決めは無効だとする最低賃金法(MiLoG)3条第1文の規定を指摘。MiLoGが発効した15年1月1日以降に締結した労働契約では最低賃金に除斥期間が適用されない旨を明記しない取り決めが、民法典(BGB)307条1項の規定に基づいて無効になると言い渡した。
BGB307条1項では、普通契約約款(Allgemeine Geschaeftsbedingungen=AGB)の作成使用者(ここでは被告企業)が信義義務に反して契約相手(原告)に不利な取り決めを行った場合、その取り決めは無効となるとの規定が第一文でなされている。さらに第二文では、意味が明確でない規定を契約相手に不利な取り決めと定義している。
つまりBAGの裁判官は、被告と原告の労働契約には除斥期間を最低賃金に適用しないとする規定がなかったことから、意味が不明確で無効な取り決めと判断したわけである。