法令違反を雇用者側が要求、被用者による労働契約の即時解除は可

法令に違反する行為を雇用者側から命じられた場合、被用者は労働契約を即時解除できる。ケルン州労働裁判所が4月の判決(訴訟番号:6

Sa

444/18)でそんな判断を示したので、ここで取り上げてみる。

裁判は航空会社のパイロットが同社を相手取って起こしたもの。

同パイロットは2016年9月28日、被告企業と労働契約を締結した。原告はこの時点で、業務で必要となる旅客機「BAe

146」の操縦資格がなかったことから、被告の費用負担で同操縦ライセンスを取得した。両者の契約には、原告が労働契約を自ら解除する場合、同ライセンス取得に被告が投じた費用を返還するとの条項があった。

原告は2017年3月28日、パリ・シャルル・ド・ゴール空港を6時30分に出航する便にパイロットとして搭乗することになっていた。被告航空会社が作成した搭乗員の移動計画では、原告を含む搭乗員は出航の11時間前に電車で空港に到着することになっていた。搭乗員は出航前に10時間の休息を取ることが法令で義務づけられていることから、移動計画に1時間のゆとりを持たせたわけである。

だが、移動計画の作成者が乗換駅の情報を誤って伝えたうえ、パリ近郊電車の運行も遅れたことから、搭乗員は出航予定時間の10時間前までに空港に到着できなかった。この事実を原告が被告に電話連絡したところ、被告はフライトの運行時間を守ることが重要だとして10時間の休息義務を無視するよう原告に促した。

原告がパイロットとして登場する便は、機材の準備が遅れたことから、10時間の休息義務は結果的に順守されたものの、原告は搭乗員と乗客の安全性を軽視して定刻通りのフライトを要求した被告の姿勢を問題視。重大な理由がある場合は労働契約を即時解除できるとした民法典(BGB)626条の規定を根拠に、被告との労働契約を即時解除した。これを受けて被告が原告にBAe

146の操縦資格取得費用を返還するよう要求したことから、原告は提訴した。

二審のケルン州労裁はこの裁判で、原告勝訴を言い渡した。判決理由で裁判官はまず、搭乗員の休息時間規定は被用者と乗客の生命・健康を守るために設けられたもので、その違反を雇用主が命じた場合、被用者が労働契約を即時解除することは正当だとの判断を示した。

操縦資格取得費用の返還要求については、原告と被告が取り決めた契約条項のなかで研修費が約3万500ユーロとなる「見通し」と記されており、正確な額が明記されていないことを問題視。

普通契約約款(Allgemeine

Geschaeftsbedingungen=AGB)の作成使用者(ここでは被告航空会社)が信義義務に反して契約相手(原告パイロット)に不利な取り決めを行った場合、その取り決めは無効になるとした民法典(BGB)307条の規定を根拠に、原告に研修費の返済義務はないとの判断を下した。同条には意味が明確でない取り決めを契約相手に不利な取り決めとする規定が含まれている。

裁判官は最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告を認めなかった。

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