ドイツ政府はスイスとの国境で出入国審査を再導入する意向だ。ホルスト・ゼーホーファー内相が週刊誌『シュピーゲル』で明らかにした。先月下旬にフランクフルト中央駅で起きたスイス在住の難民による殺人事件とは無関係と強調しているものの、同事件をきっかけとした措置と目されている。
フランクフルト中央駅では7月29日、ホームで電車を待っていた母子を40歳の男性が線路に突き落とす事件が起きた。母親はホームにはい上がることができたものの、8歳の息子は入線してきた列車に引かれてその場で死亡した。
犯人は2006年にスイスで難民申請を行い08年に承認されたエリトリア人。仕事も含めて長年、問題なく生活しており、「模範的な難民」として取り上げられたこともあった。
事件の3日前に近隣の住民に向けて刃物を振り回す事件を起こし、スイスで指名手配されていた。警察の家宅捜査で、精神科で治療を受けていたことが分かっている。
ドイツでは15年の難民大量受け入れ後、難民による犯罪が相次いだことから、右派ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢力を大幅に拡大。社会は大きく割れており、今回の殺人事件は大きな衝撃をもたらした。
ドイツは現在、恒常的な出入国検査をオーストリア国境でのみ行っている。15年の難民流入は主にオーストリアを経由するものだったためだ。だが、「バルカンルート」と呼ばれる同ルートが実質的に封鎖された後は、スイスのバーゼルから西南ドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州に入国する難民が増えている。
政府はこれを踏まえ、スイス国境で機動的な出入国審査再開する。電車や車でドイツとスイスの国境を超える際は身分証明書の提示を求められるケースが出てくることから、パスポートは必ず携帯する必要がある。