形式上は自営業者であっても、特定の1社から業務を全面的ないしほぼ全面的に受託する依存度の高い就労者を、ドイツ語で「シャインゼルプストシュテンディヒカイト(Scheinselbststaendigkeit)」と呼ぶ。「見かけ上の自営業者」という意味だ。企業は社会保険料負担が発生しない自営業者に業務を委託することがあるが、そうした自営業者が「見かけ上の自営業者」と認定されると、社会保険料の支払い義務が発生するから注意が必要だ。この問題に絡む係争でドルトムント社会裁判所が3月に判決(訴訟番号:S
34
BA
68/18)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判はノルトライン・ヴェストファーレン州にある企業が公的年金機関を相手取って起こしたもの。同社は給与計算業務を計理士Aに委託してきた。Aは2005年に開業届を提出して自営業者としての業務を開始。当初は複数の企業から業務を請け負ってきたものの、08年からは原告企業の給与計算業務が主な仕事となった。
Aは同社で月35時間勤務し、2,000ユーロを受け取ることを取り決めていた。勤務時間の拘束はなかったものの、仕事の大半は同社内で行い、同社の給与計算ソフトも利用していた。同社に対し仕事場の賃貸料は支払っていなかった。
公的年金機関はこの実態を踏まえ、Aを見かけ上の自営業者と認定。Aには社会保険への加入義務があるとして、Aの社会保険料を納付するようAと原告企業に命じた。
原告はこれを不服として提訴したものの、ドルトムント社会裁は訴えを棄却した。判決理由で裁判官は、Aは原告の業務組織に組み込まれているとの判断を示した。その根拠として◇コンピューターなどAが用いる労働手段はすべて原告のものである◇Aは業務の遂行に当たって原告企業の社員と協業している◇Aは原告の指示を受けて業務を行っている――を挙げた。また、Aが業務に当たって自らの資本を投じていないほか、原告から固定額の報酬を受け取り「経営リスク(Unternehmerrisiko)」を担っていないことも見かけ上の自営業者であることの間接証拠になると言い渡した。
Aは原告以外の企業からも小規模な業務を請け負っていたが、裁判官はこれについて、Aが実質的に原告の被用者であるという認定を変えるものではないとの判断を示した。
判決はすでに確定している。