自動車大手の独ダイムラー(シュツットガルト)は23日、メルセデスベンツブランドで展開する小型バン「シタン」の後継モデルを開発することを決議したと発表した。シタンは戦略提携先のルノー・日産・三菱とプラットホームを共有する車両。販売実績はすぐれないものの、ネット通販市場の拡大を背景に都市用配達車として小型バンの販売を伸ばせると判断した。同社はこれによりバンの全クラスで今後も車両を提供することになる。
シタンはダイムラーが戦略提携先のルノー・日産(当時)とプラットホームを初めて共有したモデル。ルノーの「カングー」をベースとし、ルノーの仏モブージュ工場で生産している。プラットホームの共有と生産委託でコストを圧縮する狙いがあった。
だが、シタンの開発と販売では大きな問題が発生した。大衆車のカングーをベースとしていることから、ダイムラーはまず、高級ブランドのメルセデスに見合った水準に高めるために多額の投資を余儀なくされたのだ。
それにもかかわらず、「メルセデスらしさ」に欠けていることから、販売が振るわず、2013年の実績は2万200台、18年も2万6,300台にとどまった。採算は取れていない。
ダイムラーはこのところ業績が悪化しており、5月に就任したオラ・ケレニウス社長はコスト削減に向けて投資と製品ポートフォリオを見直す方針を打ち出した。第2四半期(4~6月)に20億5,000万ユーロの巨額営業赤字を計上したバン部門では車種の絞り込みが避けられない状況だ。このためシタンはモデルチェンジや後継モデルの開発がないと目されていた。
バン部門を統括するマルクス・ブライトシュヴェルト氏は経済紙『ハンデルスブラット』に、ネット通販の同日配達需要が増加していることから、小型で低コストの配達用車両のニーズが高まると述べ、今回の決定の理由を説明した。移動サービス事業者への販売も見込めるとしている。
シタンの後継モデルもルノー・日産・三菱と共同で手がける。プラットホームを共同開発するのか、それとも前回の反省を踏まえてダイムラーが開発してルノー・日産・三菱サイドに提供するのかは不明。ダイムラーは声明で「メルセデスベンツの車両であることが一目で分かる」ようにすると強調していることから、プラットホーム開発をルノー・日産・三菱側に全面委託することはないとみられる。後継モデルでは電気自動車(EV)もラインアップに加える。
ダイムラーは2010年、ルノー・日産と戦略提携した。シタンのほか、超小型車「ミニ」とピックアップトラック「Xクラス」もプラットホームを共有している。だが、ミニについては筆頭株主である中国同業・浙江吉利控股集団と事業を合弁化することから、ルノー・日産との協業契約は更新されない。日産「ナバラ」をベースとするXクラスも販売が振るわないことから、モデルチェンジや後継モデルの開発はないとみられている。