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2019/9/25

総合 - ドイツ経済ニュース

暖房・車用燃料を排出権制度の対象に、CO2目標実現に向け政府が計画策定

この記事の要約

ドイツ政府は16年11月、「温暖化防止計画2050」を閣議了承し、CO2の排出量と吸収量を同量とする「カーボンニュートラル」を50年までにほぼ実現するという目標を打ち出した。

ドイツが導入する排出権制度は化石燃料を販売する際にCO2の排出権の購入を販売事業者に義務づけるというもので、21年にスタートする。

政府はCO2 排出量を特に交通と建造物分野で削減する。

ドイツ政府は20日の閣議で、二酸化炭素(CO2)排出削減目標の実現に向けた包括計画「温暖化防止プログラム2030」を了承した。国内のCO2排出量を2030年までに1990年比で最低55%削減するという政策目標の実現が現状では難しいことから、踏み込んだ措置を実施する。暖房・自動車向けの化石燃料をCO2排出権制度の対象にするというのが最大の柱で、燃料価格は大幅に上昇する見通しだ。政府は年内に関連法案を成立させることを目指している。

ドイツ政府は16年11月、「温暖化防止計画2050」を閣議了承し、CO2の排出量と吸収量を同量とする「カーボンニュートラル」を50年までにほぼ実現するという目標を打ち出した。産業革命前からの世界の平均気温上昇幅を2度未満に抑えることなどを取り決めた前年末のパリ協定を受けたもので、同国全体のCO2排出量を1990年の12億4,800万トンから30年までに「5億4,300万~5億6,200万トン」へと56~55%削減する目標を設定した。

エネルギー業界、製造業の一部、航空業界は05年以降、欧州連合(EU)排出権取引制度(ETS)の対象となっており、EUはETS対象分野の域内CO2排出量を30年までに05年比で43%削減する計画だ。

一方、交通、建造物、小規模製造業、農業、廃棄物などETS以外の分野(非ETS分野)のCO2排出削減は各加盟国の責任で実現することになっている。ドイツは非ETS分野のCO2排出量を同38%圧縮することを義務づけられており、達成できない場合は他の加盟国から排出権を買い取らなければならなくなる。

政府はそうした事態に陥らないようにするために今回の計画を策定した。ガソリンや軽油、暖房油を対象とする国レベルの排出権制度を導入して化石燃料の消費削減を図るとともに、環境負荷の小さい暖房や電動車の購入支援を拡大。30年目標の達成を目指す。

ドイツが導入する排出権制度は化石燃料を販売する際にCO2の排出権の購入を販売事業者に義務づけるというもので、21年にスタートする。購入価格は25年まで固定価格とし、26年からはオークション方式へと移行する。

固定価格は初年度の21年が排出量1トン当たり10ユーロで、その後は22年が20ユーロ、23年が25ユーロ、24年が30ユーロ、25年が35ユーロと毎年引き上げられていく。

26年導入のオークションでは売りに出す排出権の上限量を年々、減らしていく。これにより排出権価格が上昇し、灯油やガソリンの需要が減少すると政府はみている。

ただ、オークションの落札価格は一定の範囲内に抑える。価格が低すぎると燃料需要の減少効果が弱まり、高すぎると消費者に過度の負担がかかるためで、26年については下限額を35ユーロ、上限額を60ユーロとする。27年以降の上限・下限額については25年に決定する。

消費者の負担軽減策も

排出権価格は川下に転嫁されることから、燃料価格が上昇し自動車を内燃機関車から電動車に切り替えたり、石油暖房の使用を止める動きが加速する見通し。ただ、燃料価格の上昇は家計を強く圧迫することから、政府は負担軽減策も導入する。具体的には◇電力料金に上乗せされる再生可能エネルギー電力支援分担金を引き下げていく◇長距離通勤者の通勤費税控除を引き上げる◇低所得者向け住宅手当を10%引き上げる――などの措置を実施する。

政府はCO2

排出量を特に交通と建造物分野で削減する。削減の余地が大きいためだ。交通は排出削減が進んでいない唯一の分野であり、削減を求める圧力は特に高い。

同分野のCO2排出削減のカギを握るのは電動車だ。政府は電動車の普及に欠かせない充電器の設置数を30年までに百万個へと拡大する。また、電気自動車(EV)の社用車税を軽減するほか、電動車の購入補助金を引き上げる。これらの措置により電動車の登録残数を30年までに700万~1,000万台へと拡大する意向だ。

自動車以外では、◇長距離鉄道チケットに付加価値税の軽減税率を適用し価格の引き下げを図る◇フライト税を来年1月から引き上げる◇極端に安い航空券を販売できなくする――措置も導入する。

建造物分野では◇石油暖房を環境負荷の小さい暖房に切り替える世帯に対しコストの最大40%を助成する◇石油暖房の新規設置を26年から原則として禁止する◇熱効率改善を目的とするマイホームの改修を支援する――などを盛り込んだ。

ドイツのCO2排出量は昨年8億6,600万トンに上った。20年目標の7億5,100万トンを大きく上回っており、同目標は実現できない見通しだ。

30年目標も達成は容易でないことから、政府は進捗状況をチェックする外部の専門家委員会を設置する。同委が毎年、作成する報告書で進捗状況の悪い分野を指摘された場合は、改善策を策定・実施する。