独ブランシュヴァイク検察当局は9月24日、自動車大手フォルクスワーゲン(VW)のマルティン・ヴィンターコルン元社長とヘルベルト・ディース現社長、ハンスディーター・ペッチュ現監査役会長の3人を違法な市場操作の容疑でブランシュヴァイク地方裁判所に起訴したと発表した。ディーゼル車の排ガスを不正に操作していた事実の公表を故意に遅らせ株価に違法な影響力を行使したと認定した。VWは同日の声明で違法性を否認するとともに、ディース社長、ペッチュ監査役会長と今後も協働していく意向を表明した。
VWは2007年に米国で導入された窒素酸化物(NOx)の厳しい排ガス基準を同社のディーゼル車が遵守できないことから、違法なソフトウエアをインストール。台上試験でのみ排ガス浄化機能が適切に働くようにした。
米当局は排ガス不正の容疑で2014年にVWの調査を開始。15年春には事実を確認するために同社に対し執拗な問い合わせを行った。
ブラウンシュヴァイク検察当局によると、VWはこれを受けて、不正の事実を公表すると巨額の損失が発生すると判断。株価に重要な影響をもたらす事実は速やかに公表しなければならないという適宜開示義務に違反し、公表を意図的に遅らせたという。
米環境保護庁(EPA)が15年9月18日にVWに対する「違反通知」を公表すると、同社株が急落したことは、開示による巨額損失をVWが事前に認識していたことを間接的に裏付けるものだというのが検察当局の見方で、ヴィンターコルン社長(当時)は遅くとも15年5月、ペッチュ財務担当取締役(同)は同6月29日、ディースVWブランド乗用車部門担当取締役(同)は同7月27日時点で、不正の事実とそれがもたらす財務上の痛手を把握していたと断定している。
これに対しVWは、米当局と協議し問題の解決策を取り決めたうえで、共同声明を発表する意向だったと主張。EPAが違反通知を公表する前の時点では排ガス不正の適宜開示に踏み切るに足る具体的な根拠がなかったとして、巨額損失を恐れて適宜開示義務に違反したとする検察の主張に反論した。
裁判が行われ適宜開示義務違反が確定すると、損失を被った投資家はVWに対する損害賠償訴訟で有利な立場に立つことになるため、同社は巨額引当金の追加計上を余儀なくされる可能性がある。