従業員の社内代表機関である事業所委員会(Betriebsrat)は法律ないし(業界の)労使の取り決めがない限りにおいて、事業所内の様々な案件について共同決定権を持つ。これは事業所体制法(BetrVG)87条1項に記されたルールである。同項1には、「事業所の秩序と事業所内における被用者の行為」に関する決まりは経営者と事業所委が共同決定しなければならないと明記されている。この規定を巡る係争でシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州労働裁判所が8月に決定(訴訟番号:2
TaBV
9/19)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判はコールセンター運営会社の事業所委員会が同社を相手取って起こしたもの。同社は2018年6月、ITのデータトラブルが発生した際のマニュアルを導入しようとした。具体的には、トラブルが発生した場合、◇規格化された電子メールを用いて◇予め作成された文章を◇指定のメールアドレスに送信する――ことをすべての被用者に義務づけようとした。
同社はこのルールを事業所委員会の同意を得ずに導入しようとしたことから、事業所委はBetrVG87条1項1の規定に抵触すると批判。同委と協議したうえでマニュアルを共同作成するよう訴えたが、経営陣はデータ保護政令(DSGVO)の規定を遵守するためには電子メールでのトラブル通報を義務づけるのが最も安全かつ迅速な方法だと主張。DSGVOの義務を遂行するためには他の方法があり得ないとして、事業所委との共同決定を拒否した。
これを受けて、原告の事業所委員会は提訴。一審と二審でともに勝訴した。決定理由で二審のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州労裁は、被用者の労働義務を単に具体化するための命令であれば、雇用主は指示権を根拠に、事業所委の同意を得ずに被用者に何らかの行為を命令できるとしたうえで、被告が導入しようとしたのは「マニュアル化された行為」を義務づける規則だと指摘。マニュアル化された行為の導入はBetrVG87条1項1に定める共同決定の対象事項だとの判断を示した。また、DSGVOで定められたデータ保護上の義務からは、マニュアル化された行為を導入する必然性が生じないとも言い渡した。
最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告は認めなかった。