米トランプ政権が検討してきた輸入自動車および自動車部品に対する追加関税をめぐり、発動の是非についての判断を14日の期限までに示さなかったことを受け、欧州連合(EU)内では楽観論が広がっている。ただ、一部メディアは米側がEUに対する制裁を視野に、新たな調査の開始を検討していると報じており、予断を許さない状況だ。
トランプ氏は昨年5月、安全保障を理由に関税の引き上げや輸入制限を発動する権限を大統領に付与する「通商拡大法232条」に基づき、自動車や自動車部品に最大25%の追加関税を課す方向で検討を開始した。しかし、EUや日本との関係悪化により国内産業に悪影響が及ぶとの懸念が広がるなか、今年5月には関税発動についての判断を最大180日延期すると発表。その判断期限が今月14日だった。
欧州委員会のマルムストローム委員(通商担当)は21日にブリュッセルで開かれた貿易担当相会議の終了後、報道陣に対し「米国から追加関税を発動しない旨の正式通知は受け取っていないため、まだ多少は警戒しているが、すでに期限は過ぎており、大統領の発動権限は法的に厳しく制限される」と指摘。EUと米国は昨年7月の首脳会談で自動車を除く工業製品の関税撤廃に向けて交渉を開始し、その間は米国がEUからの輸入自動車に対する追加関税の発動を見合わせることで合意しており、米側はこれを尊重して追加関税の発動を見送ったとの解釈を示した。さらに米国内でも追加関税を支持する声はほとんどないと指摘し、「これらの理由からかなり楽観視している」と述べた。
こうしたなか、米政治専門紙『ポリティコ』は21日、トランプ米政権が輸入自動車と同部品に対する追加関税の発動を見送る一方、不公正な貿易慣行に対し、大統領の判断で一方的に関税引き上げなどの制裁措置を講じることができる「通商法301条」に基づいて、EUに対する新たな調査を開始するか検討していると報じた。1年後に迫った大統領選挙をにらみ、停滞するEUとの貿易交渉で主導権を握る狙いがあるとみられる。