雇用主の命令で行われた異動の違法性が事後的に確定した場合、当該被用者はそれに伴い発生した費用の保障を請求できるのだろうか。この問題を巡る係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が11月に判決(訴訟番号:8
AZR
125/18)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判は金属加工の親方資格を持つ被用者が勤務先の企業を相手取って起こしたもの。同社は2014年10月、それまでヘッセン州の拠点で勤務してきた同親方に対し11月からニーダーザクセン州の拠点に転勤することを命じた。転勤の期間は最低2年となっていた。同親方は転勤命令を不服として提訴したものの、差し当てり命令を受け入れ転勤した。転勤先はヘッセン州の自宅から遠く離れた場所にあるため、原告は週末に転勤先と自宅の間をマイカーで往復することになった。
転勤命令を巡る係争では16年5月に原告勝訴の最終判決が下ったが、原告はその後も勤務先の指示に従い同年9月までニーダーザクセンの拠点で勤務した。ただ、6~9月の期間に関してはヘッセン州の自宅~ニーダーザクセン州の拠点間の移動費を支払うよう同社に要求。これが拒否されたため、新たに損害賠償請求訴訟を起こした。走行1キロメートル当たり30セントを支払うよう要求した。
原告は一審で全面勝訴したものの、二審で部分勝訴となったことから上告。最終審のBAGで再び全面勝訴を勝ち取った。
判決理由でBAGの裁判官は、損害が発生したかどうか、あるいは損害額がどの程度かについて裁判当事者間が争っている場合、裁判所はあらゆる事情を考慮したうえで、自由な確信に基づいて判断を下すことができるとした民事訴訟法(ZPO)287条1項の規定を指摘。そのうえで司法報酬・補償法(JVEG)の規定が適用されるとの判断を下した。JVEG5条2項2には自動車利用の費用として走行1キロ当たり30セントを補償すると記されている。