被用者が長期病休した場合、雇用主は最初の6週間、給与を継続支給(Lohnfortzahlung)しなければならない。これは「祝日および病欠時の給与支払いに関する法律(略:EntgFGないしEFZG)」3条1項第1文に定められたルールである。6週間の経過後は健康保険組合が給与(支給額ベース)の70%相当額を疾病手当(Krankengeld)として支給するようになり、雇用主の給与支給義務はなくなる。ただし、当該被用者が新たに別の病気で病休した場合は、雇用主に最大6週間の給与継続支給義務が再び発生する。このルールを巡る係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が11日の判決(訴訟番号:5
AZR
505/18)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は介護施設の元被用者が同施設を相手取って起こしたもの。原告は有給休暇明けの2017年2月7日から3月20日までの6週間、精神疾患を理由に病休した。だが、家庭医は同疾患が治っていないとして「病休不能証明書(通称ゲルベシャイン)」をその後、数度にわたって発行。同疾患を理由とする病休は最終的に5月18日まで延長された。
原告は婦人科関係の手術を、以前からの予定に従って5月19日に受けた。このため、引き続き同日から6月30日まで病休した(31日付で退職)。
原告は3月20日まで給与の継続支給を受け、その後は5月18日まで健保組合から手当を受けていたものの、同19日以降は給与も手当も受け取れなくなった。
これを受けて原告は5月18日までの病休の理由と19日以降の病休の理由は異なるとして、被告・介護施設には5月19日から6月29日までの6週間、給与を継続支給する義務があると主張。3,364.90ユーロに金利を加えた額の支払いを被告に要求した。
これに対し被告は、状況から判断して原告は2月7日以降、一貫して同一の病気(精神疾患)で病休したと主張。同施設は当初の6週間、給与を継続支給しており、同期間の終了後も支給する義務はないと反論した。
一審は原告勝訴を言い渡したものの、二審のニーダーザクセン州労働裁判所は病休不能証明書を発行した3人の医師から事情を聴取したうえで、原告敗訴の逆転判決を下した。5月18日までの病休の理由と19日以降の病休の理由は異なるとする原告の主張は裏付けがないと判断したのである。
最終審のBAGは二審判決を支持した。判決理由で裁判官は、病気を理由に6週間の給与継続支給を受けた被用者が新たな給与継続支給を請求できるのは、最初の病休の原因となった病気(ここでは精神疾患)が、新たな理由(手術)による病休が始まった時点で治っている場合に限られると指摘。原告は精神疾患が5月18日で治ったことを証明できなかったと言い渡した。
■ポイント
すでに病休を取得した被用者が新たに別の病気を理由にさらなる病休を取得した場合、雇用主に最大6週間の給与継続支給義務が改めて発生するというルールは、歯止めを設けないと濫用されやすい。例えば給与を全額、受給し続けるために、最初の6週間は心臓疾患、次の6週間は肝疾患、その次の6週間はうつ病といった具合に次から次へと新たな理由で病休することが可能になってしまうためである(患者の要望に応じてゲルベシャインを発行する医師は多い)。BAGは今回、最初の病休の原因となった病気が治っていない時点で別の理由による病休を取得しても、給与の継続受給権が新たに発生することはないとの判断を示すことで、濫用に歯止めをかけた。