ドイツでは自宅前に積もった雪が原因で通行人が転んでけがをした場合、損害賠償の支払い義務が発生する。早朝に雪かきする人を見かけるのはこのためである。では、勤務先の敷地が雪で凍結していたために被用者が怪我をした場合、雇用主には損害賠償を支払う義務があるのだろうか。この問題を巡る係争で、最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が昨年11月の判決(訴訟番号:8
AZR
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裁判は老人ホームに勤務する介護職員が雇用主を相手取って起こしたもの。同職員は2016年12月7日午前7時半頃、駐車場から勤務先の建物の通用口に向かう途中、同ホームの敷地内で転倒し、足首を骨折した。雪が積もっていたうえ、通用門には電灯がなくあたりが暗かったことが転倒の原因となった。除雪は始業時間である8時よりも後に行われた。
正規の通勤ルート上でのケガであったため、労災が適用され、原告には休業補償手当(Verletztengeld)が支給された。だが、原告は雇用主が除雪義務を怠ったがゆえにケガをするはめになったとして、雇用主に慰謝料と損害賠償の支払いを要求。提訴した。
原告は一審から最高裁のBAGまですべての審級で敗訴した。判決理由でBAGの裁判官は、労災が雇用主の故意で起きた場合は雇用主に損害賠償の義務が発生するとした社会法典第7編104条1項第1文の規定を指摘。被告雇用主には重過失の疑いがあるものの、敷地内で故意にケガをさせようとした事実は確認できないとの判断を示した。
■ポイント
雇用主は法的労災保険に加入することで、労災に伴う責任義務を免除される。計算不能なリスクから雇用主を保護することが狙いである。このため雇用主に責任義務が発生するのは、被用者に故意にケガを負わせた場合に限られることになる。