5G通信網から華為を実質排除へ、法案の骨子固まる

次世代移動通信(5G)インフラから華為技術などの中国メーカーを排除する方針をドイツが固めたもようだ。政府は米英仏のように中国企業を名指しで排除することはしないものの、厳しい審査基準を通して実質的に締め出す方向で法案を作成。11月の閣議で承認するという。経済紙『ハンデルスブラット(HB)』が関係省庁から入手した情報として報じた。

5Gが本格普及すると、大量の機器がネットワークでつながり、莫大な情報が常に自動的にやりとりされるモノのインターネット(IoT)社会が本格的に到来する。そうした情報には高度なセキュリティが要求される公的機関や社会インフラ、自動運転車のデータも含まれることから、データを確実に保護することはこれまで以上に重要になる。また、ネット経由でインフラが破壊されると、経済・政治・社会の機能が麻痺することから、通信インフラを構成する機器や部品、ソフトウエアの信頼性も欠かせなくなる。

中国の通信設備メーカーは5G分野で先行しているものの、製品に組み込んだ部品などを通してスパイ活動を行っているとの批判を受けている。特に華為は非公開企業で事業活動に不透明な部分が多いことから中国政府・軍との関係が深いとみられており、米国政府は5G通信網から華為製品を全面的に締め出すことを友好国に要求。オーストラリアや英国、フランスなど複数の国はすでに同社製品を用いないことを決定した。

独政府内ではこの問題が2年ほど前から議論されているが、意見がまとまらない状況が続いてきた。中国メーカーをあからさまに排除すると外交関係が悪化し、独企業が中国で不利な取り扱いを受ける可能性が高いためだ。ドイツ経済は中国市場に強く依存していることから、政府は難しい決定を先送りしてきた。

だが、通信各社が限定的ながら5Gサービスを開始したことから、これ以上、先延ばしすることはできず、政府は内務省の法原案をベースに関係省庁間の調整を進めてきた。この結果、通信インフラを電子的なスパイ活動や破壊工作から守るために設備・部品の認証を義務付けるだけでなく、製造元の信頼性も重視するという二重の認可手続きを採用することで方針が固まった。5G通信網への中国製品採用に強い懸念を抱く内務省、外務省と、中国勢排除に消極的な経済省が妥協した格好だ。

通信業界にコスト膨張懸念

設備・部品の認証という技術面の業務は連邦情報技術セキュリティ庁(BSI)が担当する。中核インフラの製品・部品が対象となる。

製造元の信頼性に関する審査は情報機関のデータをもとに内務、外務、経済省が行う。必要に応じて内閣官房も関与する。審査では関与するすべての省庁が承認しなければならないため、中国メーカーにとってはハードルが極めて高い。欧州経営技術大学院(ESMT)のマルティン・シャルブルッフ教授は「この手続きは事実上、華為技術の締め出しに等しい」と明言した。政府は中国メーカーにとって厳しい審査を導入することで、通信サービス会社が華為製品の採用を見送ることを期待しているもようだ。

審査の対象となるのは5Gインフラの「重要な構成要素」となる製品。これには基幹回線網(コアネットワーク)だけでなく、アクセス網に使われる製品も含まれる。5Gでは高速な通信速度を実現するため、基地局やアンテナで情報処理が行われることから、アクセス網用の製品も規制の対象にする必要があるという。

華為の広報担当者はHB紙の問い合わせに「我々の手元にない法案に評価を下すことはできない」として回答を見合わせた。また、「純粋な民間企業」である華為に対し市場へのアクセスを制限する理由はないとの認識を示した。

ドイツテレコムのティモテウス・ヘットゲス社長などドイツで移動通信サービス事業を展開する3社の首脳は先ごろ与党議員との会合で、華為を排除すると、5G通信網の構築が遅れるうえ、欧州の通信業界全体のコストが550億ユーロ膨らむと指摘。同社の締め出しをけん制した。

ただ、華為は米国の制裁を受けて今後、生産に支障をきたす恐れがある。このため、欧州の通信サービス会社が華為と契約を結んでも、5Gインフラ製品が供給されない可能性もある。

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