排出量価格が急騰、EUの削減目標引き上げで

欧州の二酸化炭素(CO2)排出量取引価格が急上昇している。欧州連合(EU)が2030年のCO2排出削減目標を従来の1990年比40%から同55%へと大幅に引き上げることが背景にある。エネルギー効率改善や温室効果ガス排出削減に向けた発電事業者、エネルギー集約型メーカーの投資は加速する見通しだ。『フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)』紙が4月29日付で報じた。

排出量取引価格はここ数カ月で2倍に上昇し、1トン当たり約50ユーロとなった。同取引制度が改革された2018年に比べると10倍の水準に達している。

価格がこのところ急上昇しているのは、30年のCO2排出目標引き上げを受けて、市場で取引できる排出量が縮小していくと予想されているためだ。価格が今後さらに高騰することを見据え、排出量の売り手が販売を控えるようになったうえ、投機マネーが流入している。

電力業界では石炭火力発電からの撤退が加速する可能性が出てきた。排出量価格が高まれば高まるほど採算を取りにくくなるためで、石炭発電に代わって再生可能エネルギーと天然ガス発電が増加すると見込まれている。

現在の1トン50ユーロという価格水準は製造業にとっては問題がない。EU域内のメーカーを国際競争から保護するために十分な規模の排出量を割り当てているためだ。ただ、今後さらに価格が上昇すると鉄鋼業界などでは状況が厳しくなる。ミュンスター応用経済研究センター(CAWM)のアンドレアス・レッシェル所長は「例えば水素インフラがなければ製造業の一部は脱炭素化を最適な形で実現できない」と指摘。100ユーロを超えると製造業ではメリットよりもデメリットが大きくなるとの見方を示した。

一方、独産業連盟(BDI)のエネルギー・環境政策担当者は、地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定を順守しない国からの輸入品に関税を上乗せする「国境炭素税」がEUで導入される見通しを踏まえ、欧州委員会は国境炭素税と排出量取引制度の両立をどのように図るのかを明確化しなければならないと述べた。排出量の無償割当と同税を併用することは世界貿易機関(WTO)のルールに抵触する恐れがあるためだ。

欧州委のヴァルディス・ドムブロフスキス執行副委員長(通商政策担当)の関係者はこれに絡んでFAZ紙に、「われわれがこれ(無償割当)を段階的に廃止するのであれば、WTOは受け入れる」との見方を示した。同委は国境炭素税の導入後も移行期間中は排出量の無償割当を継続する方向だ。

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