独ダイムラーの乗用車・バン子会社メルセデスベンツは22日、市場の動向によっては2030年までに内燃機関車の販売を停止し、電気自動車(EV)に特化する見通しを明らかにした。二酸化炭素(CO2)の排出規制強化を踏まえたもの。規制が特に厳しい欧州ではメーカーのEVシフトが加速しており、メルセデスも「エレクトリック・ファースト」から「エレクトリック・オンリー」への転換を前倒しする。
欧州連合(EU)は30年の域内CO2排出削減目標を従来の1990年比40%から同55%へと大幅に引き上げた。欧州委員会はその実現に向けた政策案「フィット・フォー55」を14日に発表。乗用車の排出規制に関しては、新車のCO2排出量を30年までに21年比で55%削減し(従来の目標は37.5%減)、35年に「排出ゼロ」とする方針を打ち出した。ガソリン車やディーゼル車の新車販売はハイブリッド車を含めて35年に事実上禁止となる。
現地の自動車大手はこれに対応するため、EVメーカー化方針をにわかに打ち出している。フォルクスワーゲン(VW)の高級乗用車子会社アウディは2026年以降、ガソリン・ディーゼル車の新モデルを発表しない。ボルボは30年までに純粋なEVメーカーとなる。
メルセデスは新車販売に占めるEVとプラグインハイブリッド車(PHV)の割合を30年までに50%以上へと拡大する方針を19年に打ち出した。今回の発表では同目標の達成時期を25年へと前倒しした。販売をEVに絞り込む時期は決定していないものの、PHVを含む内燃機関車の需要が大幅に減るようであればEVへの一本化を30年までに実現できるとしている。ブリッタ・ゼーガー取締役(販売担当)は、「我々はつい最近まで、電気自動車市場は緩やかに進展すると思っていた。現在は、顧客はより早く転換しようとしている」と述べ、市場動向の急速な変化に対応するためにEVシフトの加速を打ち出したと説明した。
25年以降は新規の車両アーキテクチャーをEV用に絞り込む。中大型・大型乗用車向けの「MB.EA」、スポーツ・レース系のブランドであるメルセデスAMG向けの「AMG.EA」、バンと小型商用車向けの「VAN.EA」の3種類を同年に導入する意向だ。
EVでは航続距離の長さと充電時間の短さが販売を大きく左右する要因となる。メルセデスはこれを踏まえ、高性能モーター製造の英YASAを買収し、EV用パワートレインの垂直統合を強化する。また、電池セル生産に再参入する。
同社の今後の電池需要を年200ギガワット時(GWh)以上とみており、その確保に向けて複数の提携先企業とともに巨大セル工場を世界に計8カ所、建設する。欧州には4カ所、設置する意向だ。
航続距離を飛躍的に高めるとともに充電時間を短縮するためには、電池セルの負極に使用するシリコンの割合を大幅に高めるとしている。22年には実質航続距離が1,000キロ超のモデル「ビジョンEQXX」を世界初公開する予定だ。
EVの拡充に向けて、22~30年に同分野に総額400億ユーロ以上を投じる。一方、エンジンとPHVへの投資額は26年に19年比で80%削減する。
グリーン水素などをベースとするCO2無排出の合成燃料「eフューエル」を投入することで内燃機関車の販売期間を延長することは考えていない。オラ・ケレニウス社長は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙の問い合わせに、eフューエルを既存モデルで使用することは意義があるとしながらも、メルセデスでは投入の計画がないと明言した。