アフガニスタンの首都カブールをタリバンが15日に占領し、同国政府が事実用崩壊したことを受け、独与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)のアーミン・ラシェット首相候補(CDU党首)は翌16日の会議で、「2015年を繰り返してはならない」と強調した。ギリシャやバルカン諸国を経由して欧州に押し寄せたシリアなどからの大量の難民を人道上の理由から受けれ、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進を許した同年の政府決定の過ちを踏まえた発言だ。9月に連邦議会選挙を控えることから、主要政党の政治家は難民の大量流入につながりかねない発言を慎重に避けている。だが、アフガニスタンからの難民が欧州で急速に増える恐れは当面なく、難民問題が選挙の重要な争点になる兆しは出ていない。
アフガン難民は主にイラン、トルコ経由で欧州大陸を目指す。距離が短く移動のハードルも最も低いためだ。だが、両国はすでに大量の難民を抱えており、近年はアフガン難民の流入阻止に向けて国境警備を強化。トルコはイラン国境で壁の構築を開始した。第一弾として年内に64キロを完成させる計画だ。アフガニスタンからイラン以外の周辺諸国に出国することも難しいことから、大量の難民が欧州に押し寄せる事態は現時点で起こりにくい。
それにもかかわらずラシェット氏が2015年の再来を警戒する発言を行ったのは、無制御の難民流入を恐れる有権者に「歴史は繰り返さない」とのメッセージを送り、AfDへの票の流出を避けるためだ。CSUのマルクス・ゼーダー党首は難民問題を選挙戦の道具にしてはならないと明言した。
アフガン人協力者や人権活動家、ジャーナリストについては各党とも家族を含めて積極的に受け入れる姿勢を示している。該当者が比較的少ないうえ、迫害を受ける人を守るという人道的な姿勢をアピールできるという事情が大きい。AfDも穏健派のイェルク・モイテン共同党首が現地協力者の受け入れを「道徳的な義務」と述べるなど、全面的な難民排斥を党が一枚岩で煽る状況にはない。
主要政党はアフガン難民を受け入れるイランなど周辺国への人道支援強化を通して欧州に向かう難民の数を抑制する意向を示している。難民の無制限受け入れを主張する政党はない。