欧州連合(EU)の欧州委員会とボレル外務・安全保障政策上級代表は16日、「インド太平洋地域における協力に関する戦略」と題する政策文書を発表した。東南アジア諸国連合(ASEAN)や台湾などとの関係を強化し、経済面で中国に依存する現状からの脱却を図る。
EUは4月、EU共通のインド太平洋戦略を策定することで合意した。昨年までにフランスとドイツ、オランダがそれぞれ独自にインド太平洋戦略をまとめていたが、同地域で影響力を強める中国を念頭に、「EUと同じ考えを持つ国々」との連携を強化し、経済や安全保障の面でEUとしての存在感を高める狙い。加盟国は欧州委とボレル氏に対し、9月末までに具体策をまとめるよう求めていた。
共通戦略はインド太平洋地域の現状認識として、中国が軍事圧力を強めており、同地域では貿易や安全保障上の緊張が高まり、地政学的な競争が激しさを増して、人権も脅かされていると分析。ボレル氏は「インド太平洋地域の情勢が欧州の安全保障に直接影響を及ぼす」と指摘し、人権や民主主義といった「EUが重視する価値観を共有するパートナー国との協力関係を深め、国際秩序の維持に努める必要がある」と強調した。
戦略ではコロナ禍で医療物資などを中国に依存した反省を踏まえ、「持続可能で包摂的な繁栄」に向け、戦略物資の貿易をめぐり供給網の多極化を目指すと明記。世界的に供給不足が深刻化している半導体では、EUと貿易協定を締結している日本や韓国に加えて台湾を「パートナー」と位置付け、調達先の多様化を進める方針を示した。データ管理でも台湾は保護制度が整備されているとして、データ移転に関する協議に入る可能性を示唆した。
また、貿易・投資関係の強化に向け、オーストラリアやニュージーランドとは貿易協定の締結交渉を加速させるとともに、インドやマレーシア、タイとは早期に交渉を再開する方針を表明。台湾との交渉にも前向きな姿勢を示した。
デジタル化への対応では、日本と韓国、シンガポールと「デジタルパートナーシップ協定」の締結に向けた交渉を開始したい意向を表明した。人工知能(AI)など先端技術に関する規制やデータ流通などのルール作りで主導権を握り、EUが提唱する規制やルールを世界標準にする狙いがある。