台湾半導体ウエハー大手の独社買収が不成立、当局の承認得られず

台湾半導体ウエハー大手の環球晶円(グローバルウェーハズ)による独同業シルトロニックの買収が失敗した。ドイツ経済省が貿易法上の審査を期限の1月末までに完了しなかったためだ。DXや脱炭素の実現に向け半導体産業の重要性が高まっていることから、独政府は意図的に審査を完了させなかったもようだ。

半導体ウエハー世界3位の環球晶円は2020年12月、同4位のシルトロニックを買収することで合意した。事業規模を拡大して価格競争力を高める狙い。取引が実現すると環球晶円はSUMCOを抜いて業界2位に浮上し、最大手の信越化学工業の背中をとらえる見通しだった。

買収は株式公開買い付け(TOB)を通して行うことになっており、環球晶円は21年2月時点でシルトロニックの過半数株を確保。TOBの成立条件とした「50%以上の株式確保」を達成していた。

環球晶円のシルトロニック買収を独カルテル庁は同月時点で承認。ドイツ以外のすべての関連当局も中国を含めすでに承認しており、独経済省の貿易法上の審査が最後の関門となっていた。

貿易法には、ドイツの公共秩序・セキュリティが危険にさらされると経済省が判断した場合、欧州連合(EU)および欧州自由貿易連合(EFTA)域外の企業がドイツ企業に一定比率以上、出資することを禁止できると定められている。同法の規制は国家と連携して行動する中国企業による買収や出資を制限する狙いで近年、強化されているが、域外企業には例外なく適用されることから、台湾企業の環球晶円は審査の対象となっていた。

環球晶円は経済省の対応が厳しいことを受け、独政府に黄金株を付与することや、事後的に買収を取り消す権利を認めることなどを提案。また、シルトロニックを買収することで欧州への今後の投資が一段と増え、欧州半導体産業の発展に寄与すると強調してきたが、独政府の否定的な態度は変わらなかった。

半導体は経済競争力を大きく左右する産業となっていることから、各国政府は工場誘致を積極的に推し進める一方で、外資による自国企業買収には厳しい姿勢を示している。例えばソフトバンクグループの英半導体設計子会社アームを米半導体メーカーのエヌビディアが買収する計画は承認されない可能性がある。こうした保護主義の傾向はコロナ禍からの景気回復で半導体が不足するようになってから強まっている。

独経済省の今回の措置に対しドイツの与野党は支持の意向を示している。与党社会民主党(SPD)のハンネス・ヴァルター議員(連邦議会経済委員会副委員長)は「わが国の銀の食器を売却することを通して技術主権を獲得することはできない」と明言。野党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)のユリア・クレックナー議員(経済政策担当)も「安全保障上の利益を視野に入れることは正しい」と述べた。

環球晶円の徐秀蘭董事長はシルトロニック買収の失敗を受け、欧州の顧客企業とは今後も緊密な関係を維持するとしながらも、独政府の今回の措置が同社の今後の投資戦略に及ぼす影響を吟味すると発言した。数日前には欧州域外への投資を増やす可能性を示唆しており、独・欧州経済にマイナスに作用する可能性がある。シルトロニック買収に向けて準備した資金については数日以内に新たな投資先を明らかにするとしている。

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