軍事費の大幅拡大を首相が表明、LNGターミナル建設でガス調達多元化へ

ドイツのオーラフ・ショルツ首相はロシアのウクライナ侵攻を受けて臨時招集した2月27日の連邦議会で、軍事費の大幅拡大方針を表明した。首相は演説で「我々は時代の転換を経験している。すなわち、それ以後の世界はそれ以前の世界と同一でないということだ。問題の核心は、軍事力が法を破ってもよいのか、我々は19世紀の列強の時代に時計の針を戻すことをプーチンに許すのか、それとも我々が力を奮い起こしプーチンのような戦争挑発者に制限を課すのかということだ」と強調。ロシアへの制裁に加え、軍事力の増強も必要不可欠だとの認識を示した。

北大西洋条約機構(NATO)は2014年、各加盟国の国防費を24年までに国内総生産(GDP)比2%以上に引き上げることを取り決めたものの、ドイツはこれまで順守に消極的な姿勢を示してきた。20年の実績は1.4%にとどまる。現政権も昨年12月の政権協定で、国際的な行為に長期的に3%を投資すると記すにとどめており、順守しない可能性が高いと目されていた。

だが、ショルツ首相は今回の演説で、同比率を24年までに2%超へと引き上げ、その後もこの水準を保つ意向を表明。国防軍の能力を高めるため22年度予算で1,000億ユーロの特別基金を設置する方針も明らかにした。

ドイツ政府はこれに先立ちウクライナへの武器供与を決定した。これは紛争地域に武器を供給しないという従来の方針を180度、転換するものだ。アンナレーナ・ベアボック外相は連邦議会で「(ロシアのウクライナ侵攻で)わが国の外交の土台を新たに作る」ことが必要になったと指摘。「ドイツは今日この日、外交政策における特別で独自の抑制姿勢を止める」と明言した。ウクライナに対する武器不供与はウクライナだけでなくNATO加盟国からも批判されていた。

ウクライナに対しては国防軍が保有する携帯式防空ミサイルシステム「スティンガー」500個、対戦車兵器1,000個を速やかに供給する。政府はまた、オランダとエストニアに対し、両国が保有するドイツ製の兵器をウクライナに提供することを許可した。

35年までに全電力を再生エネに

ショルツ首相はエネルギー調達の多元化を進める方針も打ち出した。天然ガスと石油の供給でロシアに強く依存する現状はリスクが大きいためだ。ブルンスビュッテルとヴィルヘルムスハーフェン港にLNG(液化天然ガス)ターミナルを設置する計画を速やかに実現し、多くの国から天然ガスを直接、輸入できるようにする。ドイツには現在、LNGターミナルがない。

ドイツは炭素中立経済実現の橋渡しとして天然ガスを活用する方針を打ち出している。石炭など他の化石燃料に比べ温室効果ガスの排出量が少ないためだ。LNGターミナルを将来、水素ターミナルに転用すれば採算を取りやすくなる。

首相はまた、エネルギー自給率の引き上げに向け再生可能エネルギーの拡大に精力的に取り組む考えも表明した。『フランクフルター・アルゲマイネ』紙が経済省の内部文書をもとに報じたところによると、政府は国内の電力のほぼ全量を2035年までに再生エネで賄えるようにする意向だ。

天然ガスと石炭を対象に備蓄制度を導入することも計画している。それによると、貯蔵施設の運営事業者に対し毎年8月1日時点で容量の65%以上、10月1日時点で80%以上、12月1日時点で90%以上の貯蔵を義務化。冬の暖房需要で貯蔵量が減る2月1日時点でも40%ラインの維持を義務付ける。ドイツには石油の備蓄制度はあるものの、天然ガスと石炭にはこれまでなかった。同国は天然ガスの55%、石炭の45%、原油の34%をロシアからの輸入に頼っている。

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