2011年3月の福島原発事故を受けてドイツが原子力発電の全廃時期を前倒ししたのは基本法(憲法)で保障された所有権の侵害に当たるとしてエーオンなど電力大手3社が提訴していた係争で最高裁の連邦憲法裁判所(BVerfG)は6日、3社の訴えを退ける判決を示した。判決理由で裁判官は、たとえ福島の事故がなかったとしても立法者(議会)には国民の健康と環境を保護するためにリスクの高い原子力エネルギー利用を早期に打ち切ることを決定する権限があると指摘した。今回の判決により原発廃止前倒し決定の合憲性が確定。原発事業者が国内法に基づいて巨額の損害賠償を請求することはできなくなった。
ドイツでは中道左派の社会民主党(SPD)と緑の党が政権を握っていた02年、国内の原子力発電所を21年頃までに全廃する法案が成立した。だが、中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と自由民主党(FDP)からなる第2次メルケル政権は10年秋、国内原発17基の稼働期間を平均12年延長する法案を成立させ、原発全廃の時期を2040年頃へと延長した。
その数カ月後に福島原発事故が起きると、メルケル政権は方針を180度転換し、22年までに全廃する法案を議会で可決させた。
原発事業者のエーオンとRWE、バッテンフォールの3社は原発廃止時期が前倒しされたことで、将来に得られるはずだった収入が入らなくなったことは所有権の侵害に当たるとして提訴。総額190億ユーロの損害賠償支払いを請求していた。
連邦憲法裁は今回、原発廃止前倒しの合憲性を確認する一方で、02年の原発廃止決定で認められていた発電量枠を使い切れなくなった原発に関しては国に補償義務があるとの判断を示した。また、10年秋の稼働期間延長決定と福島事故後の延長撤回決定の間に行われた原発関連の投資についても国に補償義務があるとしている。各社はこれを根拠に今後、民事訴訟を起こすことができるものの、それらの裁判で得られる補償金は3社が違憲訴訟で請求した損賠請求総額(190億ユーロ)を大幅に下回るのが確実なため、損害賠償金で財務の健全化を図るという各社の思惑は空振りに終わる公算が高い。
ただ、スウェーデンの国営企業であるバッテンフォールは今回の訴訟とは別に、独政府の行為は投資保護に関する国際協定に違反するとしてワシントンの国際投資紛争解決センター(仲裁裁判所)に提訴していることから、巨額の損害賠償金を獲得する可能性が残されている。損賠請求額は47億ユーロ。同仲裁裁で勝訴する可能性は独憲法裁に比べて高いとみられている。