中道右派の与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の共同首相候補となったCDUのアーミン・ラシェット党首(ノルトライン・ヴェストファーレン州首相)が9月の連邦議会選挙に向け、最大のライバルに浮上した緑の党への攻撃を開始した。党勢低迷という厳しい現実への危機感が背景にあり、緑の党への対決姿勢を打ち出すことで差別化を図り、得票率を高める考えだ。
ラシェット党首は25日に公開された『南ドイツ新聞(SZ)』のインタビューで、「この党(緑の党)の政策内容は薄い」と批判した。温暖化防止目標の実現に向けた政策に他の政策を従属させる緑の党の選挙プログラムを念頭に、CDU/CSUは経済を政策の中心に据える方針を表明。企業の大きな負担となっている行政上の煩雑な手続きの簡素化やデジタル化を推進する考えを打ち出した。ドイツの経済競争力強化が次期政権の課題だとしている。
同氏は22~23日に開催された同族経営企業団体の会議でも緑の党を批判した。水素経済実現などの財源を確保するために富裕層への課税強化や財政赤字抑制ルール(シュルデンブレムゼ)の緩和方針を打ち出す緑の党に対し、CDU/CSUは経済成長を通して税収の拡大を図ると強調。税制分野の政策方針も緑の党とは大きく異なると訴えた。
緑の党の首相候補であるアンナレーナ・ベアボック女性党首との差別化に向けては、「彼女は語る、私は行動する」と発言した。長年の政権担当で培ってきた政策の実現力をアピール。ベアボック氏が雄弁に語る政策は理想に過ぎないとの考えを示唆した。
次期政権の連立先としては同じ中道右派の自由民主党(FDP)が好ましいとの立場を表明した。ラシェット氏はノルトライン・ヴェストファーレン州でFDPと連立政権を運営するなど、良好な関係を保っている。
ただ、ラシェット氏が直面する現実は厳しい。日曜版『ビルト』紙の委託で世論調査機関カンタールが実施した最新の有権者アンケートでは、緑の党の支持率が前回の22%から28%へと急上昇。2ポイント減の27%へと落ち込んだCDU/CSUを抜いてトップに躍り出た。FDPは横ばいの9%にとどまっており、CDU/CSUとFDPは過半数を大幅に下回る。CDU/CSUが政権にとどまるためには緑の党と連立を組む以外に実質的な選択肢がないというのが現状だ。一方、緑の党は、中道左派の社会民主党(SPD)が13%、急進左派の左翼党が7%に上ることから、両党と左派政権を樹立するという選択肢も持つ。
首相候補の支持率でも緑の党は人気が最も高く、ベアボック氏は30%に上った。ラシェット氏はSPDの首相候補であるオーラフ・ショルツ財務相(20%)を下回る18%で、最下位となっている。
CDU/CSUの首相候補の座を巡ってラシェット氏と争ったCSUのマルクス・ゼーダー党首は、有権者は過去の成功を基準に政党を選ぶのでなく、「ハングリーさとアイデアの豊かさ」を求めていると指摘。緑の党はベアボック氏という新鮮なアイデアを持つ若い女性首相候補を担ぎ出したとして、危機感を示した。ヘルムート・コール首相の長期政権後にCDU/CSUが野党に転落した1998年以来の厳しい選挙になると予想している。