天然ガスの調達多元化を視野に、ウクライナ危機を受け

ドイツ政府はウクライナ危機を背景にロシア産天然ガスの欧州向け供給が先行き不透明となってきたことを受け、調達先の多元化を検討する意向だ。ロベルト・ハーベック経済・気候相は21日付『シュピーゲル』誌のインタビューで、来冬は国内の天然ガス貯蔵量を高い水準に保てるようにする意向を表明。「これは政治の課題だ」と明言した。

ロシアの国営企業ガスプロムは欧州向けの天然ガス供給を昨年から減らしている。長期契約に基づく供給義務は履行しているものの、スポット市場を通した供給を大幅に抑制。これが欧州で供給不足と価格高騰を招いている。コンサルティング会社エナジー・ブレインプールの関係者は、ガスプロムが経済合理性に基づいて行動するのであれば、高い利益が得られる欧州向けの供給を増やすはずだと指摘。そうしないのはウクライナをめぐる米国や北大西洋条約機構(NATO)との対立があるためだとの見方を示した。

ドイツは天然ガスの95%を輸入している。ロシア産はそのうちの3分の2を占める。

欧州天然ガスインフラ業界団体GIEによると、ドイツは備蓄能力241.1テラワット時(TWh)に対し、実際の備蓄量が18日時点で107.8TWhと45%にとどまった。前年同日は55%、2年前の同日は93%に達しており、今年は水準が極めて低い。ガスプロムが運営するドイツ最大の貯蔵施設(国内備蓄能力の約20%)は貯蔵水準が現在5%にとどまる。

ドイツの天然ガス消費量は昨年、1,003TWhに上った。現在の備蓄量は冬季需要の1カ月分に過ぎない。

ドイツ政府はこうした状況を受け、ロシア産天然ガスへの依存度引き下げを検討し始めた。ハーベック氏は欧州連合(EU)加盟国のオランダ、ポーランド、イタリアに新設された液化天然ガス(LNG)受入基地で処理能力の30%しか使用されていない現状を指摘。これを100%に引き上げればロシア産への依存度を引き下げることができるとの見解を示した。ただ、価格については考慮していないと述べており、天然ガス価格の高騰は長期化する可能性がある。

政府はウクライナ危機でロシアとの関係が悪化する可能性をすでに視野に入れている。アンナレーナ・ベアボック外相は20日、米ブリンケン国務長官との会談後の記者会見で、ロシアの侵攻から規則に基づく戦後欧州の秩序を守るため同国にこれまで以上の制裁を課せば対抗措置を講じられ経済的に打撃を受ける可能性があると指摘。それでも必要があれば制裁に踏み切る意向を明確に示した。

ロシアからの天然ガス供給が大幅に減ったり停止すると、欧州は大きな痛手を受ける。ただ、ロシアは天然ガスの欧州輸出に経済・財政面で強く依存していることから、このカードを切る可能性は低いとみられている。

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