ドイツ政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は14日付『フランクフルター・アルゲマイネ』紙への寄稿文で、エネルギー危機対策の見直しを提言した。ロシア産天然ガスの欧州向け供給が削減・停止され、冬季のエネルギー不足が懸念されることを指摘。残存する原子力発電所の一部を予備電源に組み込むことで電力不足を回避するというロベルト・ハーベック経済・気候相(緑の党)が先ごろ打ち出した方針は不十分で不適切だとして、現在使用している全原発の稼働を延長する政策に改めるよう促した。
ドイツは今年末までの原発全廃を法律で定めている。だが、ウクライナに侵攻し制裁を科されているロシアが報復として欧州向けの天然ガス供給を削減したり停止していることから、ロシア産ガスへの依存度の高いドイツでは冬季にエネルギーが不足する可能性がある。
ハーベック氏はこれを踏まえ、残存する原発3基のうち2基を予備電源に組み込み、需給がひっ迫した場合に投入できるようにする意向を先ごろ表明した。予備電源として活用する期間は来年4月中旬までと短い。
緑の党は反原発を原点とする政党であることから、ハーベック氏は原発をできれば今年末で廃止したい考えだったが、エネルギー不足と価格高騰を受け、稼働延長要求が経済界や野党だけでなく、与党内でも強まっていることから、来年1月から4カ月半、予備電源扱いとする妥協方針を打ち出した。うまく行けば来年1月以降に2原発を稼働させずに済むという計算がある。
これに対し5賢人委は、◇エネルギー危機は少なくとも2024年夏まで続く◇4カ月半の予備電源化では原発運営会社のコストがかさむだけで経済的なメリットがない――と指摘。エネルギー危機が収束するまで3原発の稼働を継続するよう提言した。原発をめぐって「イデオロギーの塹壕戦」を展開するのではなく、プラグマティックな対応を取ることが重要だとしている。
同委は予備電源となっている石炭発電所を再稼働させることも促した。原発の稼働延長と同様に、電力不足と価格高騰の緩和効果が期待できるとしている。
一方、Ifo経済研究所は14日、3原発の稼働を継続すると、電力価格を来年4%引き下げることができるとの試算を発表した。国内電力の4%を賄えるとしている。