ドイツ連邦経済・気候省は5日、国内で事業を展開するメーカーが低価格で電力供給を受けられるようにするための政策原案を公表した。国際的にみて割高な同国の電力価格はロシアのウクライナ侵攻で一段と上昇し、エネルギー集約型企業の競争力が著しくそがれていることから、公的資金で電力価格を引き下げ、産業立地競争力を維持する狙いだ。今後、経済界や州などから幅広く意見を聴取し、政策を策定する考え。ただ、同政策方針に対してはエコノミストのほか、政府・与党内からも批判が出ており、難航が予想される。
電力の卸売価格は昨年8月末、1メガワット時(MWh)当たり586ユーロとなり、価格高騰が始まる前(2021年夏まで)の10倍に達した。現在は116ユーロまで下がっているものの、高騰前の水準の2倍に上っている。30年までは高止まりが続くというのが専門家の見方だ。
経済省はこうした事情を踏まえ、「橋渡し電力価格(ブリュッケンシュトロームプライス)」という名の産業向け低価格電力を30年まで導入する政策案を作成した。電力取引所価格が1キロワット時(KWh)当たり6セント(年平均)を超えた場合、超過分を国が負担する。各メーカーが使用する総量の80%に同価格が適用される。費用は計250億~300億ユーロに上ると見込んでいる。
支援資金は国の経済安定化基金(WSF)からねん出する。WSFは昨年、エネルギー価格の高騰に直面する世帯と企業を支援するための費用を最大2,000億ユーロ、市場で調達する権限を付与された。エネルギー価格が当時に比べ大幅に下落し資金的にゆとりがあることから、経済省は橋渡し電力価格向けに一部を転用する意向だ。
これに対しクリスティアン・リントナー財務相(自由民主党=FDP党首)は、転用は違憲だと批判。産業電力価格の引き下げは「理性的なエネルギー政策」を通して行うべきだとしている。