インド鉄鋼大手タタ・スチールが売却を検討している英国事業をめぐり、英政府は4月21日、買い手企業に対して数億ポンドの資金援助を行う方針を明らかにした。数万人規模の雇用を維持するため、円滑な事業売却を後押しするのが狙い。債務の減免を軸に、最大でタタの株式25%を取得する支援策も検討しているという。
タタは英国で約1万5,000人の従業員を抱えている。鉄鋼製品の世界的な供給過剰や安価な中国製品の大量流入を背景に、同社は3月末、赤字経営が続く英国事業を売却する意向を表明。今月11日には欧州の条鋼事業を英投資会社グレイブル・キャピタルに売却することで合意したと発表したが、ウェールズ南東部にある英最大の製鉄所ポート・タルボット工場などの売却先は決まっていない。従業員4,000人を擁する同製鉄所が閉鎖に追い込まれた場合、ウェールズでは関連産業を含めて約2万人の雇用が失われる恐れがあり、地域経済に深刻な影響が及ぶことになる。
民間企業・技術革新・技能省(BIS)によると、政府は直接的な資金援助に加え、タタおよびブリティッシュ・スチール(タタが2007年に買収した英・オランダ資本のコーラス・グループのうち英国部門の前身)の年金基金を運用するトラスティとの間で、買い手企業の年金負担を軽減するための具体策について協議を進めている。BISは声明で「タタ・スチールの英国事業を買収する企業に対し、商業上の条件に基づいて数億ポンド規模の支援を行う」と表明。ジャビド大臣は「国内の鉄鋼産業が長期にわたって存続できるよう、政府として支援を約束する」と強調した。
ポート・タルボット製鉄所をめぐっては、これまでに英鉄鋼商社リバティ・ハウス・グループを経営するサンジーブ・グプタ氏が買収に名乗りを上げているほか、19日にはタタ・スチールUKの鋼板事業を率いるスチュアート・ウィルキー氏がマネジメントバイアウト(MBO)を検討していると報じられた。