産業ロボット大手の独クーカに対する中国家電大手・美的集団の株式公開買い付け(TOB)は、成功がほぼ確実となった。クーカがTOB支持を正式に表明した上、筆頭株主である機械大手の独フォイトと、美的集団に次ぐ第3位株主である実業者フリードヘルム・ロー氏がTOBを受け入れたためだ。ドイツやEUでは最先端技術流出などを懸念する声があるものの、今回のTOBを現行法に基づいて阻止することはできない。このため将来に同様の事態が起きた時のことを見据えて、法整備を進めるべきだとの声が出ている。
クーカは6月28日、美的集団のTOB計画を支持すると発表し、株主に受け入れを促した。支持表明に先立ちクーカは美的集団と協議を実施。クーカと取引先の知財権を侵害しないことなどを美的集団に確約させた。
美的集団は同TOB方針を5月18日に表明し、今月16日に正式発表した。クーカの1株につき現金115ユーロを支払う。出資比率を30%超に引き上げることを目指している。買い付け期間は6月16日~7月15日の1カ月。
筆頭株主のフォイトは3日、TOBに応じて、保有するクーカ株25.1%を売却すると発表した。独複合企業ローグループのオーナー兼会長であるフリードヘルム・ロー氏も同保有株10%を美的集団に売却したことを4日、ハンデルスブラット紙に明らかにしており、美的集団は同TOBで出資比率を30%超に引き上げるとした目標を15日の期限を待たずに達成したことになる。TOB前に13.5%を保持していたことから、すでに48.6%を確保した計算だ。美的集団のTOB価格は極めて高いことから、他の株主の大半もTOBを受け入れるとみられている。
クーカはドイツの産学官が一体となって推し進める「インダストリー4.0」の中核的な企業のひとつと目されていることから、美的集団に買収されると最先端技術が流出するとの懸念が持たれている。また、インダストリー4.0では異なる企業がネットワークでつながり情報が共有されることから、これらのデータに美的集団がアクセスすることも懸念されている。
両社はこれを踏まえ、今回締結した協定に知財権保護に関する取り決めを盛り込んだ。具体的にはクーカのノウハウと顧客およびサプライヤーの秘密情報を保存するデータバンクついて◇美的集団が他の場所に移転する◇美的集団をはじめとする第3者がアクセスする――ことが禁じられた。
美的集団はこのほか、クーカに対し◇取締役会と監査役会の独立性を保証する◇事業拠点と雇用を維持する◇経営戦略を支持・支援する◇会社法上の再編を行わない◇支配契約を結ばず上場廃止も行わない――なども確約した。協定は2023年まで有効。
ドイツの貿易法にはEU域外の企業が独企業の資本25%超を取得することを禁止・制限できるとの規定がある。ただ、適用対象となるのは安全保障の関する企業に限られるため、産業機械メーカーのクーカを対象とすることは法律の拡大解釈となり、政府は同規定に基づく審査権を発動できないとしている。
経済の近代化に向けて中国企業による欧米の最先端企業買収の動きが最近にわかに活発化していることから、立法措置を通して何らかの制限を加えないと合法的な技術流失は今後も続く恐れがある。欧州委員会のギュンター・エッティンガー委員(デジタル経済・社会担当)はそうした事態を避けるために、EUの経済戦略上重要な産業分野の企業買収を域外企業が計画する場合、EUないし加盟各国レベルで審査できるようにすることを提言した。独連邦議会(下院)外交委員会のノルベルト・レットゲン委員長も現行法の間隙を国ないしEUレベルでふさぐことは緊急性の高い課題だとしている。