ストライキで損害が発生しても、雇用主はストを実施した労組に損害賠償を請求できない。ストとは雇用主に経済的な圧力をかけて譲歩を引き出すための手段であるわけだから、スト権が認められている以上、損賠請求権が発生する余地はないのである。では、ストに違法性があった場合もそうなのだろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が7月26日に判決(訴訟番号:1 AZR 160/14)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判はフランクフルト空港の運営会社フラポートが航空管制官労組GdFを相手取って起こしたもの。
GdFはフランクフルト空港で働く駐機場、管制センター職員を対象とする労使協定が一部の条項を除いて解約可能になったことを受けて同条項以外の協定内容を2011年12月末で解約。新協定の締結に向けてフラポートと交渉を開始した。
交渉が暗礁に乗り上げたため、労使は調停手続きに入ることで合意した。調停委員が作成した調停案は解約期限を迎えていない条項の変更を含むものだったため、フラポートは受け入れを拒否。GdFはこれを不当として12年2月16日にストライキを開始した。その後、労使交渉が再開されたためストを一時中断したものの、再び決裂したことを受けて26日21時~3月1日5時の予定で再びストに突入した。
これを受けてフラポートとストの被害を強く受けた航空大手ルフトハンザはストの差し止めを求める仮処分申請をフランクフルト労働裁判所に提出。同裁の裁判官はこれを受け入れて29日にストの差し止めを命じた。
決定理由で同労裁の裁判官は、有効期限が切れた協定の内容についてはストを通して新たな要求の受け入れを迫ることができるが、現在有効な労使協定の取り決めについてはその変更をストで要求することはできないと指摘。高齢労働者の夜間勤務禁止と保護に関するGdFの要求は現在有効な協定の変更を求めるもので、これを求めてストを行うことは平和義務(Friedenspflicht)に抵触するとの判断を示した。
GdFは異議申し立てを断念し、ストは終了した。
フラポートはこれを受け、GdFを相手取って提訴。ストにより計1,668便が欠航となり大きな被害を受けたとして、520万ユーロの損賠支払いを請求した。
これに対しGdFは、仮に有効期限が切れた協定部分に要求を絞ってスト実施したとしても、フラポートには損害が発生したと指摘。損賠義務はないとの立場を示した。
1審と2審はGdF勝訴を言い渡した。一方、最終審のBAGは2審判決を破棄しフラポート勝訴の逆転判決を下した。判決理由でBAGの裁判官は、労使協定の有効期間に協定当事者が闘争的な手段を行使することを禁止した平和義務を指摘。有効期限が切れていない協定内容の変更を求めて実施したGdFのストは平和義務違反に当たるとして、GDFには違法行為でフラポートに発生した損害の賠償義務があるとの判断を示した。賠償額については差し戻し審のヘッセン州労働裁判所で決定するよう命じた。