スイスの上下両院は16日、EU出身者を含む移民の受け入れ抑制に向け、労働市場で自国民を優先することなどを柱とする法案を賛成多数で可決した。国民投票で可決された移民規制案に基づき、当初は受け入れる移民の数を国別に割り当てる制度など厳しい措置が検討されていたが、最終的にEUとの良好な関係の維持を優先させる内容の法案が承認されたことで、人の自由移動を定めた協定をめぐるEUとの対立はひとまず回避された。
スイスでは2014年2月の国民投票で、3年以内に移民受け入れに上限を設ける案が僅差で可決された。スイスは多国籍企業を多く抱え、外国人労働者が経済を支えている側面がある一方、人口の約25%を外国人が占めるため、自国民の職が奪われているといった声が高まっていた。
一方、スイスは1999年にEUと協定を結び、政府調達市場の開放や農産品の関税撤廃など市場アクセスを確保すると同時に、人の自由移動の原則を受け入れている。スイスは国民投票で決定した移民規制を法制化するため、EUと交渉する必要に迫られたが、EU側は自由移動に関する協定だけを見直すことはできないとの姿勢を崩しておらず、スイス議会で妥協点を模索する動きが続いていた。
今回可決された法案によると、反移民政策を掲げる右派・国民党が提案していた移民の国別割当制度の導入は取り下げられ、代わりに雇用面で自国民を優先する政策に重点が置かれている。たとえば失業率が全国平均(3.3%)より高いカントン(州・準州)では、雇用主は国外から外国人を採用する前に、地元の職業紹介所に求人情報を提供しなければならない。また新規採用にあたり、職業紹介所に登録している地元民に対する面接を優先することが義務づけられる。
EUはスイス議会の採択を歓迎している。欧州委員会の報道官は「可決された法案にEU市民の自由移動を阻害する割当制度の導入や、スイスの労働市場へのアクセスを制限する内容が盛り込まれなかったことは良いサインだ」とコメントした。