BASFなどがトルコのテロ支援者リストに、独外相は対土投資見合わせを呼び かけ

昨年7月のトルコのクーデター未遂事件をきっかけとする同国とドイツの関係悪化に拍車がかかってきた。トルコで活動するドイツ人ジャーナリストや人権活動家がテロ支援容疑の名目で多数、逮捕されているためだ。独大手企業BASFとダイムラーがトルコのテロ支援容疑者リストに載せられている事実が明らかになったこともあり、独ガブリエル外相は20日、「法的に問題なく行動している企業がテロ支援者として扱われることを想定しなければならないのであれば、政府はトルコでのドイツ企業の投資にもはや賛成できない」と強い調子で語った。

トルコでは昨年7月15日、軍のクーデター未遂事件が起きた。同国政府は米国在住の宗教家フェトフッラー・ギュレン氏を首謀者と断定し、ギュレン派と目した人々を大量に逮捕している。

これを受けて、ギュレン派のトルコ人が多数、ドイツに亡命を申請。トルコ政府はこれら申請者の身柄引き渡しを要求しているものの、ドイツ政府は不当逮捕などトルコの人権侵害を懸念し拒否していることから、関係が悪化していた。

2月には両国の二重国籍を持つ独日刊紙『ヴェルト』のデニズ・ユジャル記者がテロ支援容疑で逮捕された。現在も身柄を拘束されている。今月5日には人権保護団体アムネスティのトルコ支部が主催する現地セミナーに講師として招かれていたドイツ人ペーター・シュトイトナー氏もテロ支援容疑で逮捕された。同氏は警察などから兆発を受けた際に冷静かつ非暴力的に対応するための技術や心構えをレクチャーしたに過ぎない。

クーデター未遂事件以降にテロ支援容疑で逮捕されたドイツ人は22人で、そのうち9人は現在も釈放されていない。独外務省は容疑をこじつけと批判し、全員の即時釈放を要求しているものの、トルコ側が応じる気配はない。

メディア報道によると、トルコのエルドアン大統領は数週間前、ドイツに逃亡した将軍2人を引き渡せばユジャル記者を釈放する考えを伝えてきた。独外務省はこうした事情を踏まえ、トルコは亡命申請した自国人の身柄を確保するためにドイツ人を“人質”として逮捕していると分析しているという。

トルコはテロ支援容疑者リストを各国に送り、捜査協力を求めている。独週刊紙『ツァイト』の19日付報道によると、独連邦警察庁(BKA)に数週間前に届けられたリストにはトルコレストランなどとともにBASFとダイムラーの名が記載されていた。トルコのシムシェキ副首相は20日、ツイッターの投稿で報道内容を否認したものの、BASFは同社がリストに掲載されている事実をBKAから伝えられたことを明らかにしている。

BKAはトルコ側が示す容疑が具体的でないため協力しない意向を『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に明らかにした。

外交関係の悪化を受けて、両国の貿易は低迷しており、ドイツの第1四半期の対土輸出高は前年同期比で8%減少。トルコからの輸入高も横ばいにとどまった。ギュレン派と目されるトルコ企業と取引をしただけでテロ支援容疑をかけられるようであれば、両国間の経済関係はさらに冷え込む懸念がある。ガブリエル外相は国がリスクの担い手となるヘルメス貿易保険の対トルコ輸出への適用や投融資、経済援助を見直す考えを明らかにした。渡航情報の危険度レベルも引き上げるとしている。

安全保障開発政策研究所(ISDP、スウェーデン)の研究員はヴェルト紙に、「エルドアンは自らをトルコの救済者として演出するために外部の敵を必要としている」と指摘。そうした敵としてドイツを選んだとの見方を示した。

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