被用者が犯罪行為ないし重大な義務違反を行ったことがほぼ間違いない場合、雇用主は当該被用者を即時解雇できる。これは最高裁の連邦労働裁判所(BAG)の判例に基づくルールであり、確実性が極めて高い嫌疑は即時解雇の根拠となる「重大な理由(民法典626条)」として認められる。このルールに絡んだ係争で、ハム州労働裁判所が8月に判決(訴訟番号:17 Sa 1540/16)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判はヘルネ貯蓄銀行の行員が同行を相手取って起こしたもの。原告が勤務する支店には2015年5月28日午前9時40分、連邦銀行(中銀)の現金収納ケースが封印された状態で配達された。現金は原告が前日に発注したもので、発注額は11万5,000ユーロだった。
同ケースは配達後20分間、外部から半分しか見えない場所に置かれていた。その時間帯にその場にいたのは原告だけだった。
原告の主張によると、原告は配達の20分後に現金収納ケースを1人で開けたところ、中には現金でなく洗剤とベビーフードが入っていた。
同行では現金収納ケースを必ず行員2人で開ける決まりがある。このため原告は規則に違反したことになる。
事件については捜査当局のほか、ヘルネ貯蓄銀行も自ら調査を実施し、翌16年4月19日に原告の即時解雇を通告した。解雇の理由としては◇原告は事件後、大きな金融取引を私的に複数回、行った◇事件当日に11万5,000万ユーロもの現金を注文する必要性はなかった――を指摘。原告の犯行と断定した。
これを不当として原告は解雇無効の確認を求める裁判を起こした。
一審のヘルネ労働裁判所は原告勝訴を言い渡し、二審のハム州労裁でも判決は覆らなかった。判決理由で同州労裁の裁判官は、原告以外の者が犯人である可能性を排除できないうえ、被告は事実解明に向けて事情聴取を行い、事実関係と突き合わせながら原告を問い詰めていくことを行わなかったと指摘。嫌疑解雇が認められるための要件を満たしていないと言い渡した。
最高裁への上告は認めなかった。
■嫌疑解雇の要件
◇被用者が重大な問題行為を行った疑いがある◇その疑いが客観的な状況に裏付けられており、嫌疑はほぼ確実である◇被用者が行ったとみられる問題行動が懲戒解雇の要件を満たしている◇嫌疑が雇用関係の継続に必要な信頼関係を揺るがすものである◇事実関係の解明に向けて雇用主は可能な限りの措置を取った