ブレーキ大手の独クノールブレムゼは19日、スウェーデン同業ハルデックスに対する株式公開買い付け(TOB)提案を取り下げると発表した。ハルデックス経営陣がTOBへの支持を撤回したうえ、スウェーデン証券監督当局SSCが買収実現に必要なTOBの延長を承認しなかったことから、断念に追い込まれた格好だ。ハルデックスに対しては昨年、自動車部品大手の独ZFフリードリヒスハーフェンが友好的なTOBを実施したもののクノールブレムゼの横やりで失敗した経緯があることから、ZFの今後の出方が注目される。
ハルデックスに対してはルクセンブルクに本社を置く商用車部品大手のSAFホラントが昨年7月にTOBを通した買収計画を明らかにした。これを受けZFは8月に対抗TOB方針を表明。ハルデックスの支持を得て友好的なTOBに乗り出した。
これに危機感を持ったクノールブレムゼは9月になってハルデックスに対するTOB計画を明らかにし、ZFとの買収合戦が始まった。
クノールブレムゼの買収提示額は最終的にZFを上回ったものの、ハルデックス経営陣はZFの買収計画に対する支持を堅持した。クノールブレムゼのハルデックス買収計画には独禁当局に承認されないリスクがあるのに対し、ZFはハルデックス買収に必要な独禁当局の承認をすべて獲得しTOBの支払いを速やかに実施できる状況にあったためだ。
だが、ZFのTOBに応じた株主は計9.59%にとどまり、同社は目標とした50%プラス1株以上を確保できなかったことから、買収を断念した。ハルデックスはこれを受けて11月、クノールブレムゼのTOB計画について、独禁法上の問題をクリアできれば支持するとの立場を表明した。
クノールブレムゼはTOBの終了期限とした12月5日までにハルデックス株86.1%を確保した。TOBの成立条件は50%超の確保だったことから、買収実現に向けたハードルを1つクリアした格好だ。その後は買収計画に対する当局の審査結果を待つために、SSCの承認を得てTOBの期限を延長していた。
だが、クノールブレムゼによる買収が実現すると適正な市場競争が阻害される恐れが高いことから欧州連合(EU)の認可当局である欧州委員会は強い懸念を表明。今年6月に独禁審査の期限を11月末まで延長した。
ハルデックスはこれを受け、クノールブレムゼの買収計画に対する支持表明の際に提示した条件が満たされない公算が高まったとして、TOBへの支持を6月29日に撤回した。
クノールブレムゼはそれでも買収を断念せず、9月26日で切れるTOBの期限を来年2月9日まで延長することをSSCに申請したが、7日に拒否の通知を受けた。欧州委の独禁審査終了前にTOBの期限が切れるとTOBが無効になることから、SSCが拒否通知を出した時点で買収実現の可能性は大幅に低下していた。
形式的には欧州委の買収承認を得てその後にTOBを再実施するという手段も残されていたものの、欧州委の承認確保にはハルデックスの協力と支持が欠かせないと判断して、買収断念を決定。同委に提出していた買収計画承認申請を取り下げた。
ZFは現在、ハルデックス株17%強を保持している。同社の広報担当者はメディアの問い合わせに「ハルデックスの推移は承知している。わが社にとって状況は変わっていない。現在も筆頭株主だ」と述べるにとどめ、再度のTOBを実施するかどうかを明らかにしなかった。
同株15%弱を保持するクノールブレムゼは「責任ある株主として行動する。ハルデックスとクノールブレムゼの最善の利益を目指してあらゆるオプションを活用する」との声明を出した。