ハンガリー、バイオ技術で世界をリード

ハンガリー企業が医薬品やバイオ技術の分野で活躍している。同国を代表する製薬企業ゲデオン・リヒターなどが中東欧のみならず世界各国に進出しているほか、同国は欧州における医薬品の臨床試験の実施先として重要な位置を占めている。近年は多くのバイオ技術関連企業が設立されるなど新分野への進出も目立っている。

ハンガリーの医薬品及びバイオ関連企業の2015年の総売上高は1億3,200万ドル。従業員数は合わせて2,300人を上回る。

1901年創業のゲデオン・リヒターは同国のみならず医薬品部門では中東欧地域最大の企業だ。現在では同地域や西欧のみならずラテンアメリカや中国でも市場を獲得し、海外での売上は総売上高約4,000億フォリント(12億9,900万ユーロ)の9割を占める。競合相手は同国の大手Egisや英国のグラクソスミスクラインだ。

■過去15年で50のバイオ企業が設立

ハンガリーでは過去15年間におよそ50のバイオ技術関連企業が設立されてきた。新薬の臨床試験やバイオ技術を利用して製造したプロテイン、モノクローナル抗体を使った医薬品の開発などに強みを持つほか、体外診断薬、植物育種、生体触媒を用いて製品を生産するバイオリアクター、バイオテクノロジーを使い燃料などを生産する生物精製も得意としている。同部門の企業の4分の3は医療分野のバイオ関連企業だ。

同国の国家バイオ技術プラットフォームによると、バイオ技術の研究と応用を行っている企業や研究機関の数は全部で約260。同国の医薬品部門には長い歴史がありノーベル賞受賞者も生み出してきた。ナノテクノロジー、分子生物学のほか、特に医療向けバイオ技術で大きな成功を収めている。

いくつかの企業はそれぞれの得意分野において世界市場を押さえており、その1つがソルボ・バイオテクノロジー(Solvo)だ。同社は薬物間相互作用を試験する上で重要な膜輸送技術でリードしている。

同社は1999年の設立以来、130種類以上の膜輸送を使った試験手法を開発し世界的な企業となった。ブダペスト近郊のブダヨルシュと南部のセゲドに研究所を持ち、約60人のスタッフが医薬品試験に従事している。同社の昨年の売上高は570万ドル、営業利益は約110万ドル。将来的に製薬会社が試験や分析を外部委託する機会は増える見通しで、同社の事業機会は拡大すると予想されている。

■投資家や大手企業も注目

同社をはじめ、ハンガリーのバイオ技術関連企業に対する投資家の注目度は高い。同国の強みは生物学と医学の高い教育水準にあるというのが投資家の見方だ。首都ブダペスト、セゲド、デブレツェン及びペーチの各大学の教育水準は高い。

体制転換後の90年代に設立された企業に、バイオ企業シクロラブ(Cyclolab)がある。同社はトウモロコシやジャガイモの澱粉から酵素分解によってシクロデキストリンを抽出・製造している。シクロデキストリンは医薬品、農芸化学、家庭用品などに利用されているが、同社は動脈硬化のほか、アルツハイマー病などのニューロン損失といった疾患にも利用できるとの見方を示す。医薬品以外の用途も有望で、ドイツの繊維研究所は繊維にシクロデキストリンを結着させインテリジェント衣料として利用する技術を研究している。それにより肌を通して医薬品を摂取したり、汗の臭いを抑えることができるという。

シクロラブはシクロデキストリンに関連した製品の研究開発で世界をリードしている。現在の従業員数は30人だが、製品の供給先は多岐にわたる。同社に照会を行う大企業は、特許の保護期間終了前に薬の剤形を変えるなど、シクロデキストリンの関連技術を用いて新製品を開発し、新たに特許の保護対象とすることを目的としていることが多い。

シクロラブの昨年の売上高は160億フォリント(約5,200万)、営業利益は約1,000万ユーロで、2025年までに売上は3倍になると見込まれている。買収を持ち掛ける企業は多いものの、同社は拒否している。

ハンガリーのバイオ産業は戦略的にも重要な意味を持つ。2007年のリーマンショックで一時落ち込んだものの、現在は順調に回復している。同国はまた、新薬などの臨床試験の実施先としても重要だ。治験に参加する患者数を見るとハンガリーは人口1人当たりの治験の実施件数で欧州4位に位置する。新薬の承認を得ることを目的とした臨床試験に参加する患者数は、年間1万7,000人から2万人。そうした事業がもたらす付加価値は年間900億フォリント(2億9,200万ユーロ)に上る。(1HUF=0.43JPY)

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