ドイツでは全国一律の最低賃金が2015年1月に導入された。最低賃金の額は当初、1時間当たり8.5ユーロ(今年から同8.84ユーロ)だった。同ルールの導入前に賃金が8.5ユーロ未満だった企業の多くは15年1月から賃金を8.5ユーロに引き上げた。
ただ、なかには賃金を据え置いたうえで、手当を上乗せする形で8.5ユーロを確保した企業もあった。時給が8.5ユーロであることに変わりがないにもかかわらず、なぜそんなことをしたのかと言うと、賃金を据え置けば賃金をベースに算出される夜間勤務手当などを低く抑えることができると考えたためである。
しかし、そうしたことは法的に許されるのだろうか。この問題をめぐる裁判で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が20日の判決で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は独東部のザクセン州にあるメーカーの工場で働く女性社員が同社を相手取って起こしたもの。被告企業には同州金属業界の労使が取り決めた04年の協定に基づき、夜間勤務手当を25%増し、有給休暇中に支給する給与(Urlaubsentgelt)を1.5倍増しとするルールが適用されていた。
原告の時給は法定最低賃金が導入前されるまで1時間7ユーロだった。導入後は賃金を据え置いたうえで手当てが上乗せされ、1時間当たりの受給額が8.5ユーロに引き上げられた。
だが被告企業は、各種手当の額についてはそれまでに引き続き1時間7ユーロをベースに計算して支給した。
原告はこれを不当として提訴。夜間勤務手当、祝日で勤務がないにもかかわらず支給される賃金、有給休暇中に支給される賃金、および有給休暇の費用として賃金と別に支給される有給休暇手当(Urlaubsgeld)の算出ベースを8.5ユーロにすることを要求した。
1審と2審は原告勝訴を言い渡し、最終審のBAGも同様の判断を示した。判決理由でBAGの裁判官はまず、勤務のない祝日に支給する賃金に言及。同賃金は仮に勤務があれば支給していた額でなければならないとした「祝日および病欠時の給与支払いに関する法律(EntgFG)」2条1項の規定を示したうえで、原告は勤務があれば時給8.5ユーロを受給していたと指摘した。同じことは夜間勤務手当、有給休暇中に支給される賃金にも当てはまるとしている。
これに対し有給休暇手当については、最低賃金(8.5ユーロ)をベースには算出され得ないとの判断を示した。その根拠として、被告企業が支給する有給休暇手当はあくまで特別手当であり、実際に行った勤務に対する報酬という性格がないことを指摘した(但し、有給休暇手当を13カ月目の月給としている企業の場合は、有給休暇手当は勤務に対する報酬となるため、最低賃金をベースに額を算定しなければならない)。