従業員メールの監視で欧州人権裁が判決

被用者が職場のパソコンなどを用いてプライベートな通信を行うことの是非をめぐる係争で欧州人権裁判所(ECHR)が5日に判決を下した。ECHRの判決はドイツを含む欧州評議会(CoE)加盟47カ国で拘束力を持つことから、欧州で事業を行う企業は注意が必要だ。

裁判はルーマニアの民間企業から即時解雇を通告された技術者が同国を相手取って起こしたもの。原告は同社を相手取ったルーマニア国内の裁判で敗訴したことから、ECHRに国を提訴した。ECHRの裁判で被告となるのは国に限定されているため、原告は裁判を通したルーマニアの公権力行使を人権侵害として訴えた。

原告が勤務していた企業では会社のパソコン、ソフトウエア、電子メールアドレスを私的に利用することが禁止されていた。それにも関わらず原告は会社の電子メールアドレスを用いて婚約者とチャットを行ったことから2007年に即時解雇を通告された。

原告は雇用主を相手取った国内の裁判で敗訴したものの、これで諦めずECHRに提訴した。

ECHR小法廷は昨年に下した判決で、◇雇用主は労働法の枠内で行動した◇原告は会社電子メールの私的利用が禁止されていることを知っていた――として原告敗訴を言い渡した。

原告はこれを不服として控訴。ECHR大法廷は逆転勝訴を言い渡した。判決理由で裁判官は、私生活や通信などプライバシーの保護を定めた欧州人権条約(人権と基本的自由保護のための条約)8条の規定を指摘。雇用主は必要性の枠内で被用者の通信の秘密やプライバシーを制限できるものの、プライバシーをゼロとすることは認められないとの判断を示した。

そのうえで原告のケースに関しては、雇用主は◇メールを監視する可能性があることを事前に明確に警告する◇監視をどのような方法、およびどの程度の範囲で行うかを事前に伝える◇メール監視に正当性があるのかを検討する◇メール監視よりも緩やかなコントロールの手段がないかを検討する◇解雇よりも軽い処分の可能性を検討する――義務があったが、勤務先企業はこれを怠ったと指摘した。

ルーマニアの裁判所はこれらの問題を見落とすことで原告の人権を侵害したことから、ECHRは損害賠償1,365ユーロの支払いを同国に命じた。

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