欧州委、EU版「ボルカー・ルール」導入を断念

欧州委員会は24日、EU域内の大手銀行をリスクが高い取引から隔離することを目的とする銀行構造改革案を撤回することを明らかにした。主要国や金融業界の反対で調整が難航し、成立の見込みが立たないことから、断念を迫られた。

米国の「ボルカー・ルール」のEU版とされる銀行構造改革案は、金融危機の再発防止策の一環として、フィンランド中央銀行のリーカネン総裁を座長とする有識者グループが2012年に発表した報告書(リーカネン・レポート)を土台にまとめられた。

リーカネン・レポートは同じ銀行グループ内で「リスクの高い特定の業務と預金業務を法的に分離する必要がある」と結論づけ、大手銀行に高リスク取引の分離を義務付けることを提案していた。しかし、銀行業界は高リスク業務の完全分離が義務付けられた場合、融資が阻害されて実態経済に影響が及ぶなどと主張し、厳格な規制に強く反対した。このため、欧州委が14年1月に発表した改革案は完全分離を避け、「大きすぎてつぶせない銀行」を対象に、顧客向けの業務を伴わず、銀行が自らの利益を確保する目的で行う自己勘定での高リスク取引を禁止することを柱とする内容となった。

それでも、主要国のドイツ、フランスが、自己勘定取引やヘッジファンドへの投資などリスクの高い業務を預金業務から分離することを義務付けるルールを導入していることから、自己勘定での取引自体を一律に禁止するルールに強く反発し、協議がまったく進まない状況に陥っていた。

欧州委の報道官は改革案の撤回について、合意の見込みがないほか、銀行の監督、破綻処理を一元化する制度が導入されたり、銀行の高リスク取引が縮小するなど改革案発表後に状況が変わったことで、新規制の必要性が低下したと説明している。

EUでは英国で、銀行に預金の受け入れを中核とするリテール業務と投資銀行業務を分離する「リングフェンス」を柱とする銀行改革法( いわゆる「ビッカーズ改革」)が制定されている。銀行構造改革の中止により、ボルカー・ルールに沿った業務分離が実施されるのは同国だけとなる。

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