ドイツ政府は9日の閣議で、集団代表訴訟を可能にする法案を了承した。企業から被害や不当な措置を受けた消費者が損害賠償などを請求しやすくすることが狙いで、政府はフォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正ディーゼル車を購入した消費者も新制度を利用できるようにする考えだ。同法案は連邦議会(下院)の承認を経て11月1日から施行される見通し。
欧州では企業が違法行為を犯した場合の消費者保護が米国と比べて不十分なことが、VWの排ガス不正問題を機に浮き彫りとなった。VWグループのディーゼル車を購入した米国の顧客が多額の補償金や返品の権利を獲得したのに対し、欧州の顧客はソフトの再インストールを受けるにとどまったためだ。
欧州連合(EU)の欧州委員会はこれを念頭に先月、消費者保護の強化策を発表。EU全域で消費者団体が集団代表訴訟を起こせるようにする法案を公表した。ドイツ政府も同様のルール導入に向けて今回の法案を作成した。
銀行や電力会社が不当な値上げを行っても、ほとんどの消費者はそれを甘受し、裁判を起こすことはない。勝訴しても得られる金額が少ないうえ、敗訴した場合のリスクが大きいためだ。
政府・与党はこうした泣き寝入りが起こらないようにするために、集団代表訴訟制度を導入する。法案によると、裁判を起こせるのは認証を受けた団体。認証団体は◇10人以上の消費者が問題に該当していることを明らかにする◇訴訟意向の公表後2カ月以内に、法務庁の訴訟登録簿に当該消費者が50人以上、登録する――の2条件を満たせば提訴できる。登録は無料で、期限は第一回目の口頭弁論までとなっている。
集団代表訴訟は和解ないし判決で終了することになる。消費者は裁判費用を負担しない。
同訴訟を起こせる主体を認証団体に限定したのは、不適切な団体がみだりに訴訟を起こす事態を回避するため。手工業者など消費者以外の被害者は大企業などから被害を受けても、集団代表訴訟を通して救済されない。
カタリーナ・バーリー法相はVWの排ガス不正で被害を受けた消費者が同ルールを利用して損害賠償を請求するとの見方を示した。約200万人が対VWで権利を行使できるとみている。ただ、排ガス不正の損賠請求権は今年末で失効するため、該当する消費者は認証団体による提訴の意向表明後、訴訟登録簿への登録を速やかに行う必要がある。